中古スマホ活況? 通信と端末の分離で何が起きる
日経緊急解説Live!
2019年は携帯通信市場が大きく変わる年になる。10月には楽天が「第4のキャリア」として新規参入し、第5世代移動通信(5G)のプレサービスも年内に始まる。一方で「ケータイ料金は高すぎる」といった批判にも一定の回答を迫られそうだ。「2019年の通信業界と5G展望」と題した「日経緊急解説Live!」を1月23日に開催し、携帯市場の政策決定に影響力を持つ野村総合研究所の北俊一パートナーと話し合った。

携帯市場に"爆弾"が投げ込まれたのは、昨年8月。菅義偉官房長官の「(携帯会社は)国民の財産である電波を使ってもうけすぎ」「4割値下げの余地あり」という発言だ。9月の沖縄知事選では自公推薦候補の公約に「携帯料金の値下げ」を盛り込み、この問題に取り組む政権の本気度を見せつけた(ただし知事選は敗北)。
討議は「はたして日本の携帯料金は高すぎるのか」から始まった。北氏は「過去数年で米英独仏の携帯料金がかなり値下がりした。それに比べれば、高止まりしているといっていい」と指摘した。
携帯各社の利益水準についても議論になった。国内上場企業(金融除く)の連結営業利益の上位5社のうち、トップのトヨタ自動車を除くと、2位から5位までをNTT、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIの通信4社が占めた。「4社の経営能力が他の企業に比べてずばぬけているから、高い利益を上げるのは理にかなっている」というだけの証拠に乏しく、やはりレント(寡占による超過利潤)が発生しているとみなすのが妥当であろう。
討議の中では欧州連合(EU)のチーフ・コンペティション・オフィサーの書いた論文も紹介され、「携帯会社が4社ある市場(国)と3社しかない市場では値下がり率がかなり違う」という実証研究の結果が報告された。3社寡占の続いた日本の携帯市場は競争活性化の余地がまだまだ大きそうだ。「第4のプレーヤー」である楽天が3社の牙城を突き崩せるか、大いに注目したい。

北氏の参加する総務省の研究会が昨年11月にまとめた携帯市場改革のための緊急提言についても議論が盛り上がった。提言の大きな柱は通信料金と端末代金の完全分離だ。総務省は2007年以降、何度かこの問題に取り組んできたが、失敗に終わった経緯がある。
今回はそうした反省も踏まえ、「ガイドラインのような緩やかな形ではなく、法律改正によって強制力を持たせる形で、完全分離をめざすことになった。総務省の中には『そこまでやるのか』とためらう空気もあったが、官房長官をはじめ政治の強い意志もあって、法改正の方針が打ち出された」と北氏が解説した。
「完全分離」が実現すれば、どんな変化が生じるか。月々の携帯料金が下がる代わりに、端末の価格が上がり、スマートフォン市場の一定の縮小は避けられないだろう。とりわけ通信会社の高額な端末購入補助をテコに、日本市場で高いシェアを占めてきた米アップルのiPhoneには強い逆風が吹きそうだ。
「アップルとしても、廉価版の拡充など何らかの対策を迫られるだろう。日本は中古スマホの流通市場が発達してないが、変化が生まれるのでは。アンドロイド端末にユーザーが流れるよりも、中古iPhoneでもいいのでiOS陣営につなぎとめたいと考えるはず」と北氏は指摘する。
今年からプレサービスの始まる5Gについても話題が及んだ。5Gは高速通信、低遅延、高通信密度という3つの優れた特徴があり、いわゆるデジタル・トランスフォーメーション(DX)ブームもあって法人ユーザーの間で期待感が高い。NTTドコモの「5Gオープンパートナープログラム」には約2000社の法人パートナーが名を連ねている。
だが5Gにも弱点がある。利用する周波数の特性から国土の隅々までカバーするには相当数の基地局を展開したり、その基地局をネットワークする光ファイバー網を展開したりする必要があり、「本格的に離陸するのは少し時間が必要」との見方を北氏は示した。もっとも「2025年ごろになれば、完全な5G時代が来るだろう」との予想も。携帯通信サービスやスマホ市場にどんな変化が起こるのか、目が離せそうにない。
(編集委員 西條都夫)