大坂ら「ダブルアスリート」が開く日本の未来
編集委員 北川和徳
テニスの全豪オープンで大坂なおみ(21)が初優勝を果たした翌日、祖父の鉄夫さん(74)のコメントを読んで笑ってしまった。「甘えん坊で弱いところもあるが、大舞台で、ふてくされながらもよくやった」
決勝の第2セットを信じられない逆転で失った後、コートに戻った大坂はまるで別人だった。ポイントを奪っても失っても表情を変えない。心の揺れを必死で抑えたのだろうが、うまくいかずにふてくされる子供のようだった。鉄夫さんの孫を褒める言葉に、幼いころの彼女の姿をイメージしてほほ笑ましく思った。

全米オープンに続くグランドスラム連覇で世界ランキング1位。「日本人選手がこんな快挙をなし遂げる日が来るなんて信じられない」という言葉を聞く。だが、われわれは彼女の父親がカリブ海のハイチ出身であることを知っている。日本選手として規格外のパワフルなプレーは、彼女が異なるルーツを持つことに支えられている。
一方で、身びいきかもしれないが、私は彼女の謙虚でひたむきな姿勢やシャイな言動、そして時折みせる幼い少女のような表情に、日本のルーツを感じる。
日本のスポーツにかつてないレベルのアスリートが続々と登場している。その中心が大坂のように国際結婚したカップルから誕生した異なるルーツを持つ若者たちだ。
バスケットボールでは富山育ちで父親がアフリカのベナン出身の八村塁(20)が米大学バスケで大活躍、NBAのドラフト上位指名さえありそうだ。陸上短距離で福岡生まれのサニブラウン・ハキーム(19)の父親はガーナ出身。
以前、彼らをテーマに「ハーフアスリートの活躍が日本を変える」と題するコラムを書いた。「ハーフ」ではなく「ダブル」と呼ぶべきだった。異なるルーツの両方の特性を備えることで、新しい才能や能力が開花する可能性が広がる。スポーツはそれをとてもわかりやすく示してくれる。
2020年東京五輪では日本もダブルアスリートが大活躍するだろう。それが閉鎖的になりがちなわれわれの意識を変え、社会を新たなステップに進めてくれるのではないかと期待している。
(20年東京五輪まであと541日)
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