2019年2月23日(土)

元格闘家のスタートアップ、くじけぬメンタル伝授

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
スタートアップ
2019/1/29 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

企業向けの人材育成サービスを手がけるエーワルド(東京・新宿)の「ファイトネス」研修が注目を集めている。格闘家だった大山峻護社長の経験を生かし、日々の仕事に役立つ思考法などを伝授。座学だけでなく参加者がグローブやミットを手に体を動かすプログラムが好評で、すでに100社以上が社員研修として導入している。魅力に迫った。

格闘技経験を生かした独自の研修で人気を集めている(中央が大山社長)

格闘技経験を生かした独自の研修で人気を集めている(中央が大山社長)

記者が同席したのは、不動産販売などを手がけるTOKYO BIG HOUSE(東京・新宿)のファイトネス社員研修。約50人が通常業務が終わった午後5時に都内の会議室に集まり、Tシャツなど体を動かしやすい衣服に着替える。「これから何が始まるんだろう」といった不安げな表情を浮かべる若手社員もチラホラいる。

「まず私の紹介から始めさせてください」。本日は経営トップではなく講師役の大山氏が映写機を使い、格闘家として活躍した現役時代の映像を流した。

格闘技ファンなら往年の大山氏の活躍を知っているだろう。柔道家として実績を残した後、総合格闘家に転身。2001年に総合格闘技「PRIDE(プライド)」に参戦し、ブラジルのヘンゾ・グレイシーなどの著名な格闘家に勝利したことで知られる。

10年を超える現役生活では、「K―1」や「パンクラス」などの大会に参戦。喜怒哀楽を前面に出すファイトスタイルで人気選手となった。

ただ現役生活は決して平たんではなく、網膜剥離など選手生命を脅かす大けがに何度も見舞われた。大山氏は「格闘家として飛び抜けた力はなかった。ただ戦いに勝利するなど良いイメージを描く力が競技を続ける原動力になった」と話す。

引退後はこうした経験を伝えようと、14年にエーワルドを設立した。「仕事で行き詰まることは誰にでもある。ただ、そうなったときに前向きな意思を持てれば状況は打開できる」。ファイトネスを通じて参加者に伝えようとしているのはこうした思いだ。

講習の後半は参加者が自ら体を動かしながら楽しむプログラムを用意した。準備運動として2人1組で背中合わせとなり立ち上がったり、互いに手や肩を触ったりする動作を繰り返す。2人の意思疎通が必要になるため、不慣れな参加者からは「全然うまくいかない」といった声も漏れた。

その後、ボールに見立てた風船を数人のグループで落とさないように回したり、ひもを付けたボールをよけたりする運動が続く。「女性も含め参加者全員が楽しめるプログラム作りを心がけている」(大山氏)。この日は50人の参加者のうち10人近くが女性だった。

PRIDEの現役選手時代の大山氏(左)

PRIDEの現役選手時代の大山氏(左)

最後は2人1組でグローブとミットを持ち、指示に従いながら互いにパンチなどを打ち込んでいく。講習から1時間以上が経過し、最初は様子見の雰囲気だった参加者の表情は変わり、大声を出しながら楽しそうに取り組む光景が広がっている。

TOKYO BIG HOUSEの菊田寛康社長は「お互い顔は知っているが話したことのない社員も多い。良い交流の場になった」と話す。参加者のひとり、日向由佳さんは「ボクササイズのイメージに近い。できるかなと心配だったが非常に楽しかった」と振り返った。

ファイトネスは、健康的な体とくじけないメンタリティー作り、前向きになる思考法の体得が主な狙いだ。加えて、参加者が一緒に汗をかくことで、組織の一体感を醸成する効果が期待できる。

ある大手企業の人事担当者は「年間を通じて様々な研修をやっているが、社員からの評価が抜群に高い」と話す。14年に始めたファイトネスはすでに100社以上で企業研修として取り入れられ、多くが継続的に利用する「リピーター」になっているという。

今後は年30社以上のペースで新規顧客を増やす目標を掲げる。今は全国各地を大山氏本人が回るが、近い将来、人手が足りなくなる。講師役をどう確保するか。ここに大山氏がファイトネスに取り組むもう1つの狙いがある。格闘家の第二の人生を支援することだ。

この日の研修には、キックボクシングで日本ミドル級1位今野顕彰氏が参加していた。現役選手と一緒に体を動かすことは参加者にとって特別な体験だが、今野氏にとっても貴重な時間だったようだ。「現役選手は常に引退後の不安を抱えている。こうした取り組みは大きな励みになる」(今野氏)

「アスリートは引退すると人が離れていく。自分が社会でどのように生きていくのかという問題に直面する」と話す大山氏。ファイトネスで作り出した社会との新たな接点を、後輩たちの活躍の場として広げていく。格闘家から転身した企業経営者の挑戦に引退の文字はない。

(企業報道部 指宿伸一郎)

[日経産業新聞 2019年1月25日付]

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