/

この記事は会員限定です

アパレル在庫、「改名」でヒット(日経MJ)

[有料会員限定]

年間10億点超ともいわれる過剰在庫に悩むファッション業界。処分を巡り、売り手と買い手をつなぐ新たなビジネスが生まれている。ブランドのタグを外し新しいロゴを付けて再販するスタートアップが登場。見せ方を変えれば在庫も売れる商品に様変わりする。2次流通市場の盛り上がりは「洋服の価値とは何か」をも消費者に問いかけている。

NIKKEI MJ

買い取り在庫を「リネーム」

「これ生地がしっかりしているわね。え、新品なの? それにしては安くない?」。2018年11月上旬、コメ兵名古屋本店(名古屋市)に友人と訪れた女性(63)が声を弾ませる。手にとったのは、衣料品ブランド「Rename(リネーム)」のニットだ。

同店で開いたリネームのポップアップストアには、トップスやパンツ、コートなど800円台から2万円台の商品が並んだ。特に5000円以下のニット類が好調だったという。

リネームはその名の通り、名前を付け替えたブランド。もともとは百貨店系ブランドやファストファッション、デザイナーズブランドがつくり、売れ残った衣料品をブランドから買い取ってタグを取り換え再販する。元の定価より2~7割安く買える値ごろ感で20代後半から40代を中心に消費者の評判を呼ぶ。

手掛けるFINE(ファイン、名古屋市)は08年創業で、従来はアパレルやOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーの在庫となった衣料品を買い取りディスカウントストアなどに卸す事業を主力としてきた。ただ、買い取り先からは「『安い値段で売られてしまうとブランドイメージの毀損につながるので困る』という声が多かった」(FINEの加藤ゆかり社長)。

そこで思いついたのが、タグを付け替えて消費者に売る手法だ。17年にリネームを立ち上げ、他社の通販サイトに出店。18年10月には自社の公式通販サイトを立ち上げた。女性向けのモッズコートが6476円、男性向けの麻綿使用のテーラードジャケットが7552円、など約1300品目が並ぶ。

洗濯タグも付け替え

リネームブランドの商品が産声を上げるのは、奈良市内に構える倉庫の中だ。買い取り品を詰めた段ボールが所狭しと並ぶ中、4人のスタッフが洋服を仕分けていた。

仕入れ先から「再販時にブランド名を外す」よう要請された場合に加え、「若者向けブランドだが、ブランド名がなければ40代以上の女性にも受け入れられるデザインだ」などと判断されればリネームに変える。

仕分けを経てリネームになる商品は、3人の職人がタグをすべて外し、ミシンでリネームのタグを縫い付けていく。会社名が書かれた洗濯ネームも、データを拾って新たに印刷して付け替えるほどの徹底ぶりだ。

「リネームで販売するなら在庫を譲る、という顧客は多い」(加藤社長)。ブランドからの信頼を得て買い取り先ブランドは累計150前後にのぼる。買い取り点数も年々増え、18年には130万点に達した。このうち1~2割がリネームとして再販される。

従来、ブランドがセールをしても売れ残った商品はアウトレット店にまわしたり、廃棄したりするのが一般的だった。これまで約20万点の在庫を同社で処理した大手小売りチェーンの担当者は、「捨てるしかなかった大切な商品がブランドイメージを損ねることなく再販できるのは大きな魅力」と話す。

加藤社長は「アウトレットやリユースのような、新たなアパレルの買い方の一つとしてリネームが浸透してくれればうれしい」と語る。リネームの年間消化率は9割を超えるといい、FINEの売り上げの3割弱を占める規模に成長した。

大手アパレルがこぞって新興のサービスに頼るのは、在庫処分がそれだけ重大問題になっていることの表れだ。

年間10億点が売れ残りに

ファッション流通専門のコンサルティング会社小島ファッションマーケティング(東京・渋谷)の調査によると、国内で出回る衣料品(下着除く)は18年に29億点。そのうち購入されたのが13.5億点で、消化率は47%。市場に投入された衣料品の約半数が売れ残り在庫になっている。

「生鮮食品でも流通在庫の廃棄率は10%ほど。ファッション業界は破綻している」と小島健輔代表は警鐘を鳴らす。「消化率が低いと先の値引きや廃棄を見込んで原材料費を抑えるため、品質が下がり売れなくなる。それでも利益が出るようにと大量生産して原価率を下げる。その悪循環が続いている」(小島代表)

大量に積み上がった在庫を下取りしてディスカウントストアや古着店に売るビジネスは既に活況だ。一方で、2次流通が難しい商品やブランド毀損を嫌うメーカーの商品は日の目を見ずに廃棄される。

昨年、英バーバリーが年間約40億円もの服や香水の在庫を廃棄していたことが明るみに出て、消費者から大きな反発の声が上がった。消費者の間で環境への意識が高まる中、在庫処分のあり方そのものを見直そうという機運がアパレル業界の中で高まっている。

一度不要となったモノでも誰かにとっては貴重な資源のはず――。BtoB向けの在庫売買システム「スマセル」のウィファブリック(大阪市)は、アパレルや百貨店から出る衣料品や生地の在庫を購入したい買い手につなぐ仲介サイトを17年7月から手掛ける。

すでに3000社がサイトに売り手や買い手として登録し、定価換算で常時20億円ほどの商品が並んでいる。買い手は主にディスカウントストアやセレクトショップ。大抵の商品が1~2週間以内に売買が成立するといい、登録者数は毎月200社以上のペースで伸びている。

誰かのごみは他の人の資産

スマセルが支持を集める理由は、売り手に配慮したサイトの設計や安心感だ。商品が出品されている間、売り手の企業名は明かされず、売買が成立して初めて買い手にのみ明かされる。また、出品時に、「特定の百貨店での販売禁止」や、「この店から2キロ以内での販売禁止」、といった細かな条件を指定できる。売買成立後に契約内容が破られていたことが発覚した場合は、強制退店や罰金の対象となる。

ウィファブリックの福屋剛社長は「アパレル商材はまさに腐らない生もの」と断じる。着られる商品でも、トレンドがあるという理由で翌年には店に置けず、廃棄せざるを得ない状況を生んでいるため。「ごみとなった衣料品でも、どこかでは大切な資源になったりする。資源として必要とされる人向けに、グローバルに橋渡しする衣料品在庫のプラットフォームになりたい」と意気込む。

環境問題が深刻になるなか、資源を循環させる社会の構築は世界的な課題だ。企業にとっても消費者にとっても、アパレル業界の在庫問題にきちんと目を向ける転換期に差し掛かっている。

「服は時間がたつとかわいくなくなるのか」

服の価値とは何なのか――。そんなことを考えさせられるセレクトショップが京都市にある。

「今年のものとか昨年のものとか、関係ないですね。自分の好きなものを着たいので」。セレクトショップ「コトバトフク」(京都市)で買い物をしていた大学生の森岡美香さん(21)は話す。

店内の商品を見渡すと、新作の隣に17~18年秋冬のコートがあったり、さらにその隣に15~16年秋冬のパンツが並んでいたり。約20の日本のデザイナーによる小規模ブランドを扱う同店はセールをせず、前のシーズンの洋服も原則定価で販売する。

「服は時間がたったら、かわいくなくなるのか」。同店の運営に携わる、京都精華大学講師の蘆田裕史さんは問いかける。「売り手や作り手が、半年たつと自分たちから『価値がないですよ』と言い出すのがセール。椅子などのプロダクトデザインではそんなことはないのに不思議で仕方ない」(蘆田さん)

店長の藤井美代子さんも「いいものは2~3年かかっても売っていきたい。続けることで、こういう価値観もあるよねと思ってもらえれば」と話す。来店客は20~60代と幅広い。売り上げも徐々に増えているという。

年に2回新作が登場し、それが半年でセールになるというサイクルで動くファッションの世界。服には流行の側面もあるが、購買動機の多くを占めるのは、そのブランド、ショップを好きかどうか。それは、信頼できるかどうかでもある。

買った服が値引きされていて、悲しい気持ちになったこと、ありませんか。ブランドやショップの価格への向き合い方が問われる時代も、そう遠くはないかもしれない。

(鈴木慶太、井土聡子)

[日経MJ 2019年1月25日付掲載]

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り113文字

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン