2019年5月26日(日)

臨床試験改革の「特効薬」 AIに集まる期待

CBインサイツ
コラム(テクノロジー)
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2019/1/28 2:00
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これがAIにとって難題となっている。マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学、ジョン・ホプキンス大学、ニューヨーク大学の研究者による研究で、こう指摘されている。「カルテに対し、感情分析や言葉の意味の明確化など一般的な自然言語処理を実行するのは困難だ。スペルミスが多く、略語だらけで、コピペが多用されているからだ」

がん解析ソフトなどを手がける米Flatiron Health(フラットアイアン・ヘルス)は、特許申請書類でこの点についてこう説明している。「通信方法によって、構造化データは構造化されていないデータになることがある。例えば、ファクスで送付されたり、PDFのような読み取り専用文書に変換されたりしたデータは、構造の大半が損なわれる」。この時代遅れの手作業によるシステムのせいで正確なデータの収集が難しくなっている。

米カリフォルニア州に拠点を置くスタートアップのMendel.ai(メンデルai)は、がん患者から同社のプラットフォームに自分の診療記録を提出してもらい、断片的な診療履歴をつなぎ合わせることに取り組んでいる。患者はメンデルに対し、自分の代わりに医師から診療記録を収集する許可を与える。

メンデルはデジタル記録から情報を抽出し、治験と患者をマッチングさせる機械学習のアルゴリズムを開発した。料金は定額制で、診療記録に記載された全てのデータを処理するため、当初3カ月間の最低料金は99ドルだ。

ところが、メンデルはこのところ、沈黙を保っている。事業の拡大計画や、追加の資金調達ラウンドも発表していない。

その他のスタートアップには、機械学習を使って治験やClinicalTrials.Govに記載されている治験の「選択基準」「除外基準」に関する専門用語を単純化してくれる英Antidote.me(アンチドート・ミー)などがある。

企業向けでは、医療機関と直接提携し、ディープラーニング(深層学習)や自然言語処理を使って治験のマッチングを自動化するスタートアップが登場している。例えば、米Deep 6 AI(ディープ6AI)は、米シダース・サイナイ・メディカルセンターやがん医薬品開発受託機関の米TD2などと提携している。

■患者データ入手のための戦略的買収

フラットアイアン・ヘルスは14年、がん専用の電子カルテ(EMR)を手がける米Altos Solutions(アルトス・ソリューションズ)を買収した。

フラットアイアンは当時、医療機関やライフサイエンス企業向けにクラウド解析プラットフォームを販売しており、Florida Cancer Specialistsなどのがん専門クリニックがアルトスの電子カルテを使っていた。この買収により、フラットアイアンは他社の電子カルテを使うのではなく、患者の生データに直接アクセスできるようになった。

現在では、フラットアイアンのがん専用電子カルテ「OncoEMR」を使う臨床医は2500人を超え、200万人以上の患者の記録を研究目的で利用できるとされる。

ロシュは18年2月、フラットアイアンを19億ドルで買収した。買収額はAI分野では過去最大規模となった。

ロシュがこの買収に加え、遺伝子検査を手がける米Foundation Medicine(ファンデーション・メディシン)や医療データを解析する米Viewics(ビューイックス)など他のデータサービス企業も最近買収したのは、同社が機械学習を駆使するデータ重視の製薬会社への転身に関心があることを示している。

■治験の登録に伴う問題

患者が自分に最適だと思う治験を選んだだけでは、登録プロセスは完了しない。

通常は治験チームの調査担当者による電話での仮審査を受けた後、治験への参加基準を満たしていることを示すため、治験の実施機関を訪れなくてはならない。確認の一環として、調査担当者は他のクリニックから患者のカルテを収集する。前述したように、ファクスや電子メールで取り寄せたこの記録は、AIを使って情報を抜き出す際に問題となる。

AIで患者のカルテから情報を抽出するサービスでは、選定基準と除外基準の一部を自動的に照合し、登録手順を簡素化できるものもある。

さらに有望な解決策が、患者生成データの活用から生じている。リアルタイムに生成されるデータは膨大なため、AIは患者生成データと切っても切れない関係にある。

「研究を、研究室から日々の生活の中へ連れ出します」(アップル)

「研究を、研究室から日々の生活の中へ連れ出します」(アップル)

この分野に乗り出しているのが米アップルだ。同社はスマートフォン(スマホ)「iPhone」と腕時計型端末「アップルウォッチ」を軸にした治験エコシステム(生態系)を徐々に築きつつある。患者を継続的にモニタリングすることで、これまで入手できなかった健康データの宝の山が出来上がるというわけだ。

アップルは研究に最適な患者を見つけやすくするため、すでに健康機関や医学研究者との提携に乗り出している。

■AIで服薬をサポート

患者が服薬の指示を守らない場合には、身体に副作用が生じたり、治験結果の精度が妨げられたりする事態になりかねない。治験を実施する側はこうした状況を変えようとして、そのためのテクノロジーに資金を投じている。

米ファイザーやノバルティスなどの大手製薬会社は、患者に服薬を促すモバイル技術の活用に加え、服薬状況を追跡するために「飲むセンサー」に投資している。米製薬大手メルクのベンチャーファンド(VC)Merck Ventures(メルク・ベンチャーズ)は17年1~3月期に、無線で通信できる薬瓶を手がける米Medisafe(メディセーフ)のシリーズBの資金調達ラウンドに参加した。調達額は1450万ドルだった。

AIスタートアップ各社はさらに、正しく服薬していることを目で確認できるようにしようとしている。ニューヨークに拠点を置くモバイルソフトのプラットフォーム、AiCure(Aiキュア)は画像認識と顔認識のアルゴリズムを使って服薬状況を追跡する。患者は薬の服用時に自分の姿を動画に収め、Aiキュアは正しく服薬されていることを確認する。

Aiキュアは米国立衛生研究所(NIH)と米国立薬物乱用研究所(NIDA)などから助成金を受けている上に、新株発行による資金調達で2700万ドル余りを調達した。

Aiキュアが取得した服薬モニタリング(左)と物体検知(右)に関する特許の一部

Aiキュアが取得した服薬モニタリング(左)と物体検知(右)に関する特許の一部

一方、米VCコースラ・ベンチャーズの出資を受けている米Catalia Health(カタリアヘルス)は、AIを使った健康管理ロボットの開発を進めている。

カタリアは患者に応じて質問したり、服薬を促す通知を設定したり、会話を調整したりすることで、患者の行動に変化をもたらそうとしている。患者が服薬を忘れる理由を把握するのが、同社の目標の一つだ。カタリアのロボット型アシスタントは基本的にはタッチ画面付きのタブレット端末だが、音声による起動にも取り組んでいるとされる。

AIアシスタントが生活習慣の変化を促せるかは、患者がアシスタントと日々積極的に会話する気があるかに左右される。こうしたやり取りはAIとIoT技術を使ってモニターされる。

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