今日も走ろう(鏑木毅)

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円滑な人間関係へ 逃げずに一歩踏み込む

2019/1/24 6:30
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大峯千日回峰行とは9年の歳月をかけ48キロメートルの険しい道をたどることを千日間続ける荒行で、この行を成功させた僧侶は1300年の歴史のなかでわずかに2人のみだという。

そしてその後に9日間飲まず、食わず、寝ず、臥(が)せずに経を唱え続ける四無行をも満行した塩沼亮潤さんと対談をした。塩沼さんはこの行を通して多くを学び、人生で起こりうる事柄を柔軟に受け入れる心を手に入れたと話された。ただこれほどの行を乗り越えてもたった一つだけ克服できなかったものがあったそうだ。それは人間関係の問題で、1人だけ受け入れることができない人がいたという。

レースの困難より人間関係の難しさの方が悩みは尽きない(仏領レユニオン島のレースで)

レースの困難より人間関係の難しさの方が悩みは尽きない(仏領レユニオン島のレースで)

人間関係は本当に難しいものだと私も常日ごろ頭を悩ませている。とりわけ40歳まで勤めた公務員時代に苦い経験がある。当時何となくそりが合わない上司がいた。謹厳で、私が仕事をこなしながらトレイルランニングの大会に参加し海外渡航することが許せないのか、私に対して常に冷淡だった。そのため私もそれとなく避けるようになり、彼に会うと思うと毎日の出勤も気持ちが重く、大きなストレスを感じていた。

ある日この上司から突然「こんなことを自分は聞いていないから今更言われても承諾できない」との叱責があった。私としては伝えたつもりだったのにどうも互いに思い違いがあったようだ。より密なコミュニケーションをとっていれば良かったと反省したが、上司との溝はさらに深まり、苦手意識はさらに加速した。

いよいよ思い詰めて妻に相談すると「あなたのその気持ちがきっと伝わるのよ。もっと自分から話しかけるようにしたら」とアドバイスされた。コミュニケーション下手な私がある朝勇気を振り絞り、朝のあいさつに続けて「今日は寒いですね」との一言を加えた。最初はぎこちない雰囲気が漂ったが、めげずに連日何らかの一言を伝えた。幸い上司も私の意図を理解してくれたのか少しずつ会話が続くようになった。たわいない日々のやりとりから徐々に苦手意識はうせ、いつしかざっくばらんに仕事の相談もできるようになった。

塩沼さんも苦手な相手に自ら発した何気ない会話を通して壁を乗り越えたという。塩沼さんいわく、人の器の中に自分が包まれている状態ではダメで、自分自身の器が相手を包み込むように相手の全てを受け入れる人間的な大きさを持つべきなのだ、とのこと。

このような境地には到底至っていない私だが、苦手だと思う人にこそより前向きに話しかけ、人間関係が円滑になるように心がけている。この社会を生きる上で何よりも難しい人間関係から生ずるあつれき。自分の心の壁に閉じこもることなく、壁を下げ、勇気を出して気軽な一言を自分から発してみてはどうだろう。何事をも柔軟に受け入れる心を持つことが大切だ。レースでふりかかる困難を乗り越えるのと同じ要諦といえるかもしれない。

(プロトレイルランナー)

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