2019年8月24日(土)

ファーウェイにみる米捜査の威力(The Economist)

2019/1/23 2:00
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The Economist

カナダのバンクーバー空港で国際的なもめ事が発生するのは意外かもしれない。だが昨年12月1日、同空港で乗り継ぎをしていた中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)であり、同社創業者の任正非氏の娘、孟晩舟氏がカナダ当局に逮捕された。同氏の逮捕を要請したのは米検察当局で、同社が米制裁下のイランと取引しているという疑惑を捜査中だった。これを受けて中国当局は、カナダ人数人を拘束、今月14日には麻薬密輸の罪でカナダ人男性に死刑を宣告した。

昨年12月11日にファーウェーCFOの孟晩舟氏は保釈が認められたが…=AP

昨年12月11日にファーウェーCFOの孟晩舟氏は保釈が認められたが…=AP

孟氏は、中国やカナダの法を犯した罪に問われているのではない。米国は今世紀に入って以降、国境を越えた犯罪の取り締まりを強化してきた。自ら導入した制裁を実施し、貧困国の汚職を減らし、資金洗浄やテロ資金供与に対処すべく、米国から遠く離れた企業やその役員でも起訴できる手法を編み出してきた。孟氏は現在は保釈中で、2月に予定される公判で米国への身柄引き渡しを免れるべく準備しているが、数十年の実刑を受ける可能性もある。

■違反企業に「監視団」送り込む米当局

米国の目的は、ほぼいずれも立派だ。おかげで多くの悪事が明らかになり、防止効果もあるだろう。だが米国が、こうした自国の規範を国外で強要するケースが増えており、それが公正なのかという疑問が浮上している。その法的な網にかかった企業の大半は外国企業で、多くは欧州企業だ。中には米国の制裁がなければイランと取引しても何ら問題のない国の企業もある。したがって、これを米国の金融帝国主義だと非難する向きは、その権力に何とか歯止めがかけられないかと考えている。

欧州の政治家や財界人は、米国の法律に従わされることにいら立ち、別の魂胆があるのではないかと疑っている。「米国の制裁措置は他国にも適用されるため、欧州企業は最近ますます振り回されている。米国の経済的利益促進に利用されている」と欧州の経団連に相当するビジネス・ヨーロッパのピエール・ガタズ会長は語る。2014年の米ゼネラル・エレクトリックによる仏アルストムのエネルギー部門買収の時のように、米司法の力が国外にまで及ぶことが米企業に外国の競合より優位に働く例もある。駆け引きを重視するトランプ米大統領は、孟氏の法的な扱いを材料に、中国との貿易交渉を有利に進めようとしている。

米国は、世界経済で中心的役割を果たしているおかげで各国企業の経営に自分たちのやり方を押し付けられるという法外な特権を持つ。中には禁輸対象国と取引しているという理由だけで、米国への輸出を禁じるという制裁もある。他方、企業の収賄の撲滅を目的とする米連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)のように、刑事裁判における起訴に結びつくものもある。

米国の国外での取り締まり活動はいくつかの要素があいまって可能になっている。一つは、域外適用が徐々に拡大されている点だ。米国の法律は、国外では適用されないというのが前提だが、法の解釈には検察が大きな権限を持つ。米国の法律の対象は、これまでになく広く解釈されるようになっている、と弁護士らは証言する。

米ドルが世界貿易の中心的通貨であるため、多くの金融取引は最終的にはニューヨークを介すことになる。このことが米検察に捜査に乗り出す根拠となり得るように、米国外の会社役員2人が、グーグルのGメールで賄賂についてやり取りしていれば、米企業が提供するメールサービスを利用しているとの理由から米検察当局が捜査権があると主張できるという。

グローバル化した金融システムも米国に有利に働く。各銀行は、米検察当局に大きな痛手を負わされてきた。仏BNPパリバは14年、スーダンやキューバ、イランとの取引を仲介したとして89億ドル(約1兆円)の罰金を科され、ドイツ銀行は17年にロシアから流出した100億ドルの資金洗浄に加担したとして、4億2500万ドルの罰金を科された。こうしたことから多くの銀行が、怪しげな顧客との取引はやめておいた方が安全だと判断するのは当然だろう。

一部の企業や銀行は、起訴を免れる条件として、費用は自社負担だが、米当局に同社の取引を報告する独立した「モニター(監視団)」を社内に受け入れることを余儀なくされている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、華為技術の不審な取引を米検察に通告したのは、英金融大手HSBCの監視団だった(同行はメキシコの麻薬カルテルが自行のシステムを通じて資金洗浄するのを見過ごしたとして、12年に米政府に19億ドルの罰金を科され、その後、監視団の受け入れに応じていた)。孟氏には、銀行が実質的に制裁を破るよう仕向けたという容疑がかけられているが、華為技術はこれを否定している。

■中国企業が対象になるケースは珍しい

こうした米国のやり方に批判的な人々には、米国が外国企業ばかりを標的にしていると映る。コンサルティング会社フェナーゴによると、米国が資金洗浄や制裁破り、および関連した違反行為により取り立てた罰金250億ドルの4分の3以上は欧州の銀行からだという。1億ドル以上支払った銀行は15ある。一方、同様の行為で米銀行が払った罰金総額は50億ドルに満たない(ただ、米銀はサブプライムローン関連の詐欺などの違反で痛い目に遭っている)。汚職捜査の対象も外国企業が目立つ。FCPAにより最も多額の罰金を科された上位10社のうち、米企業は2社しかない。

米国が外国に厳しく自国に甘いというのを証明するのは難しいし、正当な理由があるのかもしれない。例えば、スキャンダルまみれのブラジル国営石油企業ペトロブラスは最近、FCPAにより過去最高額の罰金を科されたが、自業自得にみえる。欧州各国は自国企業の汚職を長く見逃してきたし、注意を要する国で事業を展開する傾向があり、それで足をすくわれる可能性がある。これに対し米企業はFCPA規定を徹底して順守していると主張する。一方、華為技術を標的とした今回の逮捕は、中国の大手企業が米国当局に目をつけられた珍しいケースだ(ある欧州企業のトップは、地政学的な要因があると疑っている)。

イランへの世界的な禁輸措置が解除された3年後に、米国が一方的に制裁を再開したことは、特に欧州企業を怒らせた。仏石油大手トタルや独シーメンスは、欧州企業が長く狙っていた市場での事業チャンスを諦めざるをえなくなったからだ。彼らに同調する政治家は、トランプ米政権が、こうした域外適用を武器に米企業の国外展開を後押しするのではないかと危惧している。独仏は、国が支援する特別目的事業体(SPV)を通して自国企業がイランと取引を継続できるよう模索しているが、なかなか進展はみられない。

■最近は各国とも米検察当局に協力

米国の活動をきっかけに、各国は自国の汚職撲滅活動を改善している。「多くの場合、米国が汚職問題に取り組むのは、他国にその気がなかったり、その能力がなかったりするからだ」とクイン・エマニュエル法事務所のロバート・アメー氏は話す。だが、それは過去の話になるかもしれない。英国は、米連邦捜査局(FBI)出身のリサ・オソフスキー氏を重大不正捜査局(SFO)のトップに据え、企業には長期化する裁判を戦うのではなく、米国式の示談に応じるよう働きかけるようになった。また、シンガポールからフランスまで各国の汚職担当調査官らは、米汚職担当者らと協力するようになった。その見返りに、企業から取り立てた罰金の一部を受け取っている。相手に勝てないなら仲間になれ、というわけだ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. January 19, 2019 All rights reserved.

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