イタリアに行ったら食べるべき 各地の名産10選

イタリア料理というとトマトのイメージがあるが、実はイタリアの食は一つのスタイルで成り立ってはいない。異なる気候、農産物、歴史、文化から誕生したイタリア各地の伝統料理が組み合わった「美味のモザイク」がこの国の食の本質だ。多様性に富む一方で、食べ方に目を移すと地域差はない。どの地方も地元の食材への敬意があり、調理はシンプルでありながら繊細、そして家族や友人たちとのんびりと楽しみながら味わう。さっそくイタリアを代表する10の食を紹介していこう。
1:ピエモンテ州のトリュフ
500グラム弱が40万円近い値で取引される白トリュフ。我々を魅了してやまないこの食材を味わうために、人々はピエモンテ州アルバまで足を延ばし、トリュフを数枚スライスしたリゾットを食べる。白トリュフは地下で育つ。このため、一般的なキノコのように風で胞子をまくことはない。白トリュフが次代を残す戦略は香りだ。強い香りを含んだ成分を放って動物を誘い、白トリュフを土の中から掘り出すことで胞子を拡散できるのだ。しかも、白トリュフが強い香りを放つのはわずか数日。香りが消えると、白トリュフ独特の風味も失われてしまう。トリュフの仲間には果樹園で収穫できるものもあるが、白トリュフはナラ、ヤナギ、ポプラ、ハシバミの木の根の周りでしか育たない。こうした希少性こそ白トリュフが究極の季節食材と言われるゆえんだ。

2:ベネト州のポレンタ
コーンミール(トウモロコシの粉)のようなポレンタはベネト料理の中でも独特の存在だ。どの料理カテゴリーにも属さず、前菜からデザートまで広く使われる。たとえば、バッカラ・アッラ・ビチェンティーナ(水で戻した塩漬けタラの牛乳煮込み料理)のような、肉汁やソースがその風味を引き立たせてくれる料理に、ゆるいかゆの状態で添えられることもある。あるいは、ポレンタの上にソース(肉入りでも肉なしでも可)と溶けるチーズを交互に重ねてオーブンで焼くのもいいだろう。ポレンタはさまざまなスイーツの定番の材料でもあり、トルタ・サッビオーザ(砂のケーキ)や、ベネチア名物の金色をしたクッキー「ザレッティ」にも使われる。
3:エミリア=ロマーニャ州のプロシュート・ディ・パルマ
「パルマハム」として世界に名高いプロシュート・ディ・パルマを作るには、次の4つが欠かせない。まず乳清(パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの副産物)、そして健康な豚、乾燥した空気、塩だ。もちろん、おいしいパルマハム作りには連綿と継承されてきたノウハウも欠かせない。パルマはこれらがすべてそろう。ハムの原材料となるのは生後10カ月の豚の後ろ脚だ。塩漬けにされた後、ぶらさげられて乾燥させ、定期的にもまれる工程を経ながら、長い時間をかけて熟成させられる。オリーブ畑、チェストナットや松の林の香りを集めながら丘陵地帯の生ハム工場にアペニン山脈からの風が吹き抜ける。こうした風土が、パルマハムを誕生させたのだ。
4:エミリア=ロマーニャ州のパルミジャーノ・レッジャーノ
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズは、18カ月から4年間かけて熟成する。熟成期間が長くなるほど風味は強くなる。光沢を帯びた金色の輪になったチーズにナイフが入れられると、このチーズならではの香りが立つ。このチーズは、地域の生活と記憶そのものと言っていいだろう。というのも、本物のパルミジャーノ・レッジャーノの塊は、豊かな麦わら色をしており、硬く、湿り気を帯び、薄く剥がれやすく、かすかに粒状の質感を持っている。すりおろしたばかりのパルミジャーノ・レッジャーノの香りは、おいしい料理をさらに引き上げる。どうしてなのかを理解するには、パルミジャーノ・レッジャーノ自体を食事の最初に食べ、濃厚な香りと複雑な質感を堪能してみればわかる。その味わいは、口の中でチーズの粒がゆっくりと溶けるにしたがって放たれ、何層にも重なった風味が次々と現れてくるのがわかるだろう。
5:トスカーナ州のルッカ・オリーブオイル
オリーブはイタリア各地で育てられているが、香りの強いリッチなエクストラ・バージンオイルで知られる土地の一つがトスカーナ地方だ。特にティレニア海に近いルッカのエクストラ・バージンオイルは最高の逸品とされている。手間暇かけて手作りで作られた製品は限られており、値段も張る。それでも、エクストラ・バージンオイルは、トスカーナ料理のみならず地中海の料理文化に欠かすことができない。トスカーナのシンプルな豆料理や、素朴な郷土料理リボッリータでは、味付けはルッカのオリーブオイルをひとたらしだけということも多い。ジューシーなキアニーナ牛のステーキでさえ、ルッカの黄金の液体を振りかけるだけでさらにおいしさを増す。

6:ラツィオ州のアーティチョーク
アザミのつぼみである紫色をしたアーティチョーク。なかでも柔らかいカルチョーフォ・ロマネスコは、ローマを代表する野菜だ。別名チマローロやマンモラとも呼ばれるこのアーティチョークはとげのないアザミで、丹念に剪定(せんてい)され、一株に若芽一つだけになるように育てられる。産地はヴィテルボ、ローマ、ラティーナなどで、火山性土壌が独特の風味を与えてくれる。ほかにも、多種多様なアーティチョークがシーズンを通して作られている。新鮮なアーティチョークは、オリーブオイルをかけて生で食べられるほど柔らかくおいしい。シーズンが終わると、残った小さめのアーティチョークはオリーブオイルに漬けて保存され、冬のごちそうとして食卓に並ぶ。
7:ラツィオ州のジェラート
ローマはジェラートの殿堂でもある。市内には2500軒のジェラテリアがあるほどだ。ジェラートとアイスクリームの違いをご存じだろうか。簡単に言えば、ジェラートはアイスクリームよりもなめらかで脂肪分や砂糖は少ない。甘みを出すのは、フレーバーの決め手となる食材だ。ジェラートは、味と舌触りの良さを保つため、少量ずつ冷やしかき混ぜて作られる。ラツィオで最高のジェラートが食べられるのがローマであり、ジェラテリアは新鮮な乳製品と高品質の生食材を使い、それぞれの店が芸術的とも言える自家製の一品を提供している。使われる素材は地元産の果物やナッツ、高級チョコレート、ワインや酒類など幅広い。新鮮な地元産リコッタチーズから作られる大人気のフレーバー、ディ・リコッタ・アッラ・ロマーナは、ぜひとも試してもらいたい。
8:カンパニア州のエスプレッソ
ダークでどろりと甘いエスプレッソはナポリ名物の一つ。バールでは小さなカップで出され、一口か二口で飲み干す。カンパニア流のいれ方には秘訣がある。豆を細かくひいたら、フィルターに詰めた粉を上から押し固める。エスプレッソマシンの圧力はなるべく上げ、地元の水を沸騰させて一気に抽出するのだ。人気店では、その場で少量ずつ豆を焙煎している。なおエスプレッソにもさまざまな飲み方がある。しっかり覚えておこう。エスプレッソ:ストレートで濃厚(レモンを垂らすのは邪道だ)。リストレット:濃縮度の高いエスプレッソのこと。ルンゴ:お湯を多めに使ったエスプレッソ。マキアート:泡立てた少量のホットミルクで「染みを付けた」エスプレッソ。カフェコレット:リキュール、グラッパ、コニャックなどを加えたリストレット。カプチーノ:泡立てたホットミルクを加えたエスプレッソ。カフェラッテ:ホットミルク半分、エスプレッソ半分。
9:シチリア州のかんきつ類
レモン、ライム、グレープフルーツ、シトロン、多種多様なオレンジ――かんきつ類の香りこそシチリア島の香りだ。アランジャと呼ばれる酸味の強いオレンジは、生食には適さないが料理で用いられる。旅行ライターのヘレナ・アトリーは「インセンス(香)のようで、しかも驚くほど強い苦味がある」と評している。中世においては、酸っぱいオレンジはエリート向けの高級食材で、東洋の珍しい香辛料と共に肉の味付けに使った。こうしたオレンジも、やがてシチリアで採れるほかのかんきつ類に取って代わられた。その代表が、ルビーのように赤い果肉からその名が付いたブラッドオレンジだ。
10:サルデーニャ州のペコリーノ・ロマーノ
サルデーニャ島で作られる熟成したチーズ「ペコリーノ・ロマーノ」は塩気が特徴だ。チーズの製法を編み出したローマの羊飼いたちはこの味を好み、高価な塩の代わりに料理の風味付けにチーズを使った。残念ながら、現在、国外で消費されるペコリーノ・ロマーノの大半は、適切な取り扱いがなされていないため、オリジナルが持つ魅力を欠いてしまっている。すりおろしペコリーノ・ロマーノは、スパゲティ・コン・アッチューゲ・エ・チポッレ(アンチョビと玉ねぎのスパゲティ)など、南部風の力強いパスタの風味を際立たせるのにもってこいだ。存在感の強いものを加えると素材が負けてしまいそうな料理では、ロマーノの代わりにパルミジャーノ・レッジャーノを使うといいだろう。

(文 EUGENIA BONE AND JULIA DELLA CROCE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年1月14日付記事を再構成]
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