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明治に天理、帝京…大学ラグビー王座交代のドラマ

ラグビーの全国大学選手権で10年ぶりに新しい王者が誕生した。帝京大の連覇は9でストップ。天理大との決勝を制した明大が22年ぶりに優勝した。時代の節目となった王座交代を、一つの切り口から見てみたい。

天理大を支えた「ヤリのようなスクラム」

初優勝を目指した天理大の看板はスクラムだった。島根一磨主将はその特長を「ヤリのようなスクラム」と表現する。8人全員が中央のフッカー島根に向かって、ヤリのとがった刃先のように力を集中して相手FWを崩す。平均体重97キロと決して重くはないが、その押しは強力無比だった。

1960年代、ヤリに似た「ヤジリ戦法」というものがあった。同志社大を強豪に育て、「関西ラグビーの父」といわれる故・星名秦さんが考案したスクラムで、やはりフッカーに力を結集する。星名さんが当時指導していた京都大の軽量FWが同大に対抗するための策だった。

弱者が強者を倒す戦術であり、西のラグビー界の伝統技法。それが天理大のスクラムだったといえる。

かつてのヤジリは相手をけん制する意味合いが強かった。マイボールの確保に眼目を置き、組んだ後は素早く球を出す。それから半世紀後のヤリには相手を突き破る鋭さがあった。天理大が決勝で組んだマイボールスクラムは4度。毎回ボールをキープして押し、うち3度は明大の反則を誘発した。

天理大はモダンな技術も持ち合わせていた。主審の声に合わせて組む直前、低く、力の出る強い姿勢になるまでのスピードが相手よりコンマ数秒速かった。「スクラムは(組むまでの)セットアップが全てだと思っている」とは左プロップの加藤滉紫。天理大がこだわってきた「速さ」は、現代のスクラムのキモである。

決勝で一度だけ反則を奪えなかったマイボールスクラムがラストワンプレー、逆転を懸けた場面だった。プッシュを掛ける前にスクラムが崩れた。「押すつもりだったけれど、プレッシャーを受けてボールを出さざるを得なかった」と島根主将は悔やむ。

相手が修正を加えていたからだ。明大の右プロップ祝原涼介が説明する。「最初は左の方向に押そうと思っていた。でも、思った以上に(右の)僕の方へのプレッシャーが強かった」

スクラムの構造上、左プロップは右肩だけで押すが、右プロップは両肩に相手の重みを受ける。自由度の高い左プロップを前に出して崩すのは定石。互いにその形を狙ったが、天理大のヤリの方が鋭かったというわけだ。

穂先を向けられる格好になった祝原が対策を明かす。「ハーフタイムに真っすぐに組む形に変えた。相手の仕掛けを我慢して、カウンターで固まって押そうと」。防御を優先して最初の突きを耐えられれば、自軍の武器である重みを生かせるという判断だった。

最後のスクラムの直前には明大のFW第1列が全員、交代している。「入ってくる選手にもしっかりフィードバックした。ハーフタイムに話した通り、真っすぐしっかり固まって押せばいいと伝えた」と祝原。再確認した形で組むと、押しに出てきた相手のスクラムが崩壊。最後は天理大の落球でノーサイドとなった。

ここ数年、王座奪還を目指す大学が注力してきたのがスクラムだった。連覇を続ける帝京大の数少ない穴だったからだ。今年の準決勝で、天理大が帝京大からスクラムで5つの反則を奪い、快勝したのは象徴的だった。

明大を変えた帝京大の体づくり、組織づくり

決勝で両校が見応えのあるスクラム対決をし、試合全体が名勝負となったのも、目指すべきライバルがいたからといえる。明大の田中澄憲監督が優勝後の記者会見でこう語っている。「目標とするチームがあったからここまで成長できた」

帝京大の9連覇の最大の原動力は鍛え上げた屈強な体だった。科学的なトレーニングに栄養士の指導、血液検査などの医科学的な取り組み……。特に6連覇ごろまでは筋肉のよろいが相手よりも明らかに分厚かった。

おかげで「まずは体づくり」の意識が他校にも浸透。明大、早大などの伝統校も栄養摂取やトレーニングの手法を洗練させていった。

大学ラグビーの「体」の進化は数字に表れている。例えば、大学選手権で4強に入ったチームの先発の平均体重。帝京大が最後に4強を逃した2006年度、FWは96キロ、15人で87キロだった。今年度はそれぞれ102キロ、94キロまで増えている。

王者を支えた2つ目の力が、意思疎通のしやすい組織文化だった。岩出雅之監督が目指したのは「上級生が下級生をサポートするサーバントリーダーシップ(支援型のリーダーシップ)」だ。

そのための仕組みづくりが巧みだった。掃除などの雑用は上級生が行う。「1年生に心の余裕を持たせて、自分づくりに集中してもらうためだった」。練習中に学年ばらばらの3人組をつくり、次のメニューの狙いや注意点を話し合わせるのは「聞く力」を磨く狙いがあった。下級生は伸び伸びと力を発揮し、上級生は若手を支え、導く力を養っていった。その文化を明大の田中監督も「帝京の学生は素晴らしい。主体的に動けてポジティブ」と称賛する。

風通しのいい気風は他校にも影響を与えた。かつては非合理な風習が多かった明大も変わった。一例が、毎日の練習着を1年生が洗濯する習慣。筋力トレーニングや食事を終えて先輩の分まで洗濯をしていると、床に就くのは午前1時。朝練のために翌朝の起床は午前5時ごろだ。これでは体づくりに必要な睡眠が取れないと3年前に撤廃となった。「上級生と下級生がプレーのことを寮でぱっと話し合ったり……。いい文化が築けてきた」と祝原。育んできたコミュニケーション力や主体性は、決勝でのスクラムの修正、勝因となった組織守備で生きた。

王者帝京大も新たなステージへ

帝京大で心身を鍛えた部員からは、今年のワールドカップ(W杯)に出場しそうな選手も多く生まれた。15年W杯以降、坂手淳史、姫野和樹、流大、松田力也、中村亮土の5人が新たに日本代表に定着。リーチ・マイケル主将がリーダーシップを褒めるメンバーでもある。代表への人材供給という点でも帝京の功績は大きかった。

その育成力を最も評価していた一人が、エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチだった。複数の関係者によると、ジョーンズ氏は前回W杯の後、代表強化で岩出監督に連携を求める予定だった。自国開催のW杯に向け、若年層の育成などを共同で進めようとしたものとみられる。ジョーンズ氏の退任で幻に終わったが、実現していればどんな形のものができていただろうか。

新たな王者が誕生し、大学ラグビーの一時代が終わった。田中監督は「できることなら帝京のような部員を育てたい。強いチームには文化、スタイルがある。それをつくっていきたい」と今後への構想を語る。近年の帝京大のように各校の見本となり、リーダーになれる人間を輩出する存在を目指すということだろう。

敗れた王者も、このままでは終わらないはず。「選手層がここ数年薄くなってきていた」とチーム関係者が指摘した通り、以前ほどの潤沢な戦力がないのは事実。ただ、9連覇の間にパワーと堅守のチームからダイナミックにボールを動かすスタイルに転換したように、また新たな形を模索していくのだろう。

岩出監督がスクラム練習を減らしたのは「若い選手の体に負担を掛け過ぎてはよくないのでは」という懸念もあったからだという。しかし「帝京に勝つにはスクラムだと思われているみたいやし、(これから我々も)メチャクチャ鍛えるよ」と監督はいう。それができる環境もできた。昨年完成したスポーツ医科学センターは国内最新鋭の機能を保有。けが予防や体づくりで再び他校に先んじる狙いだ。

両校のような人材や設備を「持てる者」が高め合い、一方で天理大のような「持たざる者」が伝統技法に最新の息吹を吹き込んで立ち向かえば、次の時代もまた名勝負が生まれるだろう。

(谷口誠)

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