2019年6月25日(火)

今日も走ろう(鏑木毅)

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若者には酷な箱根の興奮と重圧 その思い出

2019/1/17 6:30
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今年の東京箱根間往復大学駅伝は創部59年の東海大が全区間を安定して走りきり、大会新記録で初制覇した。圧倒的に有利だと思われていた5連覇を目指す青山学院大は箱根駅伝の独特の雰囲気に翻弄されたようにも感じた。

30年ほど前、私も箱根駅伝を目指していた。もともと力不足だった上に腰の故障もたたって夢は果たせず、選手の付き添いを何度か経験した。とりわけ大学2年時に1学年下の櫛部静二さん(現・城西大監督)に付き添った2区の様子は鮮明に覚えている。当時母校の早稲田大の戦績は長く低迷していたが、櫛部さんを含む超高校生級の3人の1年生が入学し、彼らを重要な1区から3区まで並べた布陣だった。

興奮と熱狂のるつぼと化した箱根駅伝のスタート=共同

興奮と熱狂のるつぼと化した箱根駅伝のスタート=共同

当日の中継所の雰囲気は異様だった。観客やメディア、テレビスタッフの興奮は早くも最高潮、付き添いの自分でさえ脚が震えたほど。櫛部さんは1年生とはいえ、すでにジュニアの世界大会にも出場するなど場数を踏んできた大物らしく平静を装っていた。ところが、この時レース用の腕時計を忘れ、急きょ私が貸すことになった。駅伝では腕時計はペースコントロールに必須のアイテム。これを忘れるとは相当緊張しているのだな、と驚いたものだ。

レースが始まりやがて早稲田大の1年生がトップで2区の中継所に来るとの情報が入る。「1位ワセダダイガク」と係員の興奮した声を合図に、彼の着ていたガウンを預かると、「頑張れ。落ち着いて」と小さく声をかけ、中継エリアに送り出した。将来を嘱望されているとはいえ、高校を出たばかりのこの細身の青年を異常ともいえる興奮のるつぼに放り込むことが何とも痛々しく感じられた。

彼は序盤こそコース記録を上回る快走をみせたが、終盤にペースを落とし、ついには中継所手前の最後の上り坂で歩きだした。意識がもうろうとし蛇行しながらもタスキを次の選手に渡すのがやっとで、結果的には大失速となった。のちにわかったことだが、レース前に体調も崩しており、本調子ではなかった。

今でも箱根駅伝でブレーキとなる選手を見ると、レースに送り出したあの時にもう少し気の利いた言葉をかけ、リラックスした気持ちでのぞむよう声をかけていたらどうだっただろうと考えてしまう。

青山学院大は5連覇こそ逃したものの、復路の追い上げは胸が熱くなるほど素晴らしいものだった。社会的にも注目され、20歳前後の若者には少々酷なようにも思える箱根駅伝。あれほどのプレッシャーはおそらく通常の生活では決して体験できないだろう。

いまは指導者となった櫛部さんが城西大を箱根駅伝の常連校に育てた活躍ぶりをみると、レースの結果はどうであれ、あの苛烈な経験が生かされているのだなと思えてこちらもうれしくなり、納得もできる。

レースで力を出し切れなかった選手たちには陸上競技にかかわらず社会のどこかで再起を期してほしいと願うばかりだ。

(プロトレイルランナー)

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