軽井沢バス事故から3年 「子供の死を無駄にしない」
大学生ら15人が死亡した2016年の長野県軽井沢町のスキーバス転落事故の発生から15日で丸3年となった。次男の寛さん(当時19)を事故で亡くした大阪府吹田市の会社員、田原義則さん(53)は被害者遺族の会の代表を務め、国土交通省との意見交換を続けるなど再発防止への思いを強く持ってきた。「子供たちの死を無駄にしない」と胸に誓っている。

「二度とあのような事故を起こさない社会に」。12日、実家のある京都府舞鶴市で妻の由起子さん(52)と墓参りに訪れた義則さんは、寛さんが幼い頃から好きだったイチゴを供え、思いを新たにした。月命日に合わせ毎月、吹田市の自宅から墓参りに訪れ、遺族会で話し合ったことなどを報告している。
告別式で寛さんに再発防止を誓い、3年間、行政などへの取り組みを続けてきた。
事故から4カ月たった16年5月、「遺族の意見を聞いてもらわないといけない」との思いから、遺族会の再発防止策への意見をまとめ国交省に意見を提出。抜き打ちの街頭監査や運転手への適性診断の実施を求めた。
今でも数カ月に1度のペースで国交省と意見交換会を開催し、バス協会や旅行業界との間のものも合わせ、3冊の資料ファイルができた。吹田市の自宅から東京に行くことも「使命感があるから全く苦にならない」ときっぱりと話す。
国交省は事故を受けて掲げた85項目の対策の全項目をすでに開始。監査を通じて、指摘されていた違反項目が是正されなかった2社の事業許可を取り消すなど、安全に向けた取り組みが進められている。
だが、バス事故はなお起きている。18年11月、三重県内を運転中の観光バスで、男性運転手が運転中に意識を失い、乗客が停車させる事故が発生。田原さんは「一つ間違えれば死亡事故につながっていたものもある。対策は確実に進んできたが、今のままで十分か国に検討してほしい」との要望も持つ。
今でも事故直後と変わらず、毎朝、朝食にパンを供え、友人たちが事故後に作ってくれた寛さんの大型の写真のパネルを広げる。「一緒に生活をしているという気持ちに変わりない。離れて過ごしていた大学の頃よりも顔はよく見ているかな」と話す。多くの同級生が社会で活躍するのを喜ばしく思う一方、寛さんのイメージは大学生で止まったままだ。
「3年を過ぎれば社会での事故の記憶は薄れてくるかもしれない。3年は大きな節目だ」と風化への危機感がある。18年5月、遺族が話し合い現場近くに慰霊と再発防止を祈る碑を建てた。「碑を交通安全の象徴にするため、提言などできることを続けていく。子供たちの死を無駄にしない」と行動を続ける。
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石井啓一国土交通相は15日の閣議後の記者会見で、事故について「亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りするとともに、負傷された方にお見舞い申し上げます」と述べ、「悲惨な事故を二度と起こさせないという強い決意の下、関係者と引き続き様々な対策を実施して貸し切りバスの安全安心の確保に万全を期していく」と語った。