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多角化の功罪(大機小機)

日本企業は短期の利益よりも長期の存続と成長を目指す性向が強い。欧米やアジアの国々と比べても、日本には長寿企業が多いことが多くの国際比較研究で明らかにされている。

日本企業が長期志向になるのは、長期の責任を負っているからだ。従業員とは長期雇用を約束し、取引相手とは長期継続取引を約束している。これらの約束は文書化されていないが、書かれざる契約として強い拘束力を持つ。長寿は多様なステークホルダーに利益を与えるのである。

企業の長期的な存続のための重要な手段は、事業の多角化である。個々の事業には寿命があり、いつかは衰微する。それを乗り越えて企業が存続するには、事業の多角化が不可欠である。日本では紡績やレーヨンなどの衰退事業を本業としていた企業の多くが、本業の衰微の後もしぶとく生き残っている。成長分野で新事業を開発してきたからである。欧米では衰退産業の企業の多くが、産業の衰微とともに消滅している。

事業の多角化は米国の投資家からは評価されないようだ。それどころか米国市場では多角化企業は過小評価されがちである。この過小評価は多角化ディスカウントと呼ばれる。多角化のための資金があるなら、投資家に還元せよというのが投資家の主張だ。企業がリスクをとって事業を多角化しなくても、投資家が成長分野の企業の株式を購入すれば、大きなリスクをかけることなく、成長分野に投資をシフトできるというのが投資家の論理である。

成長分野で新規事業の柱が育成できず、銀塩フィルムの衰微とともに2012年に一時経営破綻した米イーストマン・コダックは、日本の視点から見れば失敗例だが、米国の投資家からは評価される。新事業へのリスキーな投資より株主への還元を重視したと考えられるからである。

細く長く稼ぐ日本型と、太く短く稼ぐ米国型のどちらがより多くの累積利益を生み出すか比較するのは容易ではない。予測可能な将来だけを考えれば、米国型の評価が高いかもしれないが、長期的にどちらが良いか断言するのは難しい。

日本の企業は稼ぐ力が低いという見方があるが、この見方は長期を考えても正しいのだろうか。足元の数字だけを見ていると間違ってしまう。

(猪突)

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