横並びの順張りファンド みんなで渡れば怖くなる
無人市場(4)
市場の動きを数学的に分析し、システムで運用するクオンツファンドの資産規模が膨らんでいる。調査会社のヘッジファンド・リサーチによると、クオンツファンドの運用資産額は約9700億ドル(約105兆円)とリーマン危機があった2008年の2.5倍となった。17年まで続いた「ゴルディロックス(適温)」相場で、安定した利回りを求める年金などの投資マネーが集中した。

代表例が米AQRキャピタル・マネジメント。2260億ドル(約25兆円)と世界トップクラスの運用規模を誇るクオンツファンドだ。世界の金融商品に機動的に投資し、市場の方向性を決める存在となっている。
米コネティカット州にある閑静な住宅街。その一角にある本社から世界中に売買を発注する。世界で現・元大学教授を19人抱え、従業員の半数近くが修士号以上の学位を保有する理系人材だ。金融関係で引用される学術論文の引用数は米シカゴ大に次ぐ世界2位の実績を誇る。
AQRは、株のモメンタム(勢い)やボラティリティー(変動率)を数値で把握し、運用資産全体のリスクが一定になるように調整する。このため年末年始のような荒れ相場では株式などリスク資産を減らす。結果的に相場の振幅を大きくする傾向が強い。

例えば、世界の金融市場が大揺れとなった18年12月末。同社が運用するグローバルマクロファンドは株式と国際商品をそれぞれ10~20%の売り持ち(ショート・ポジション)、債券を50%超の買い持ち(ロング・ポジション)とした。AQRは個別の投資戦略にコメントしないが、ポートフォリオからは混乱に対応したリスク回避型の順張り戦略が透けてみえる。
世界の先物商品などに投資する商品投資顧問(CTA)世界最大手、マン・グループは「トレンド・フォロー」と呼ばれる相場の勢いに追随する戦略が売り物だ。
「運用を決めるのは値動きの方向性と、変動率だ」。約1100億ドル(約12兆円)を運用するマンのルーク・エリス最高経営責任者(CEO)は自社の運用手法をこう解説する。
例えば、株式や原油先物の上昇の勢いが増し、価格が連日で上昇すれば買い増していく。一方、値動きが荒くなると逆に投資を減らす。「日々、ポートフォリオ全体の変動率が一定になるよう売買を調整する」(エリス氏)

ファンドが株式などリスク資産への投資を増やすのは、17年のような株価が右肩上がりでじわじわと上昇していく相場だ。一方、年末年始のような下げ相場では、リスク資産の売りに動く。
マンの真骨頂はリスク管理にある。システムが世界の市場を24時間体制で監視し、10分おきにリスクをチェックする。18年2月や10月の急落局面。マンのある運用戦略は、株価と債券が同時に下落し始めたのを異変の「予兆」と捉え、他の投資家が株価急落に巻き込まれる直前に、持ち高(ポジション)を半減させた。
リスク管理は、ファンドマネジャーの経験則ではなく、マンが開発した運用モデルが行う。「車で自動運転が普及するように市場でも人の直感に頼る部分は少なくなっていく」(エリス氏)
こうしたファンドはいずれも相場の流れに従って運用する順張り戦略をとる。相場の流れに逆らう「逆張り」だと運用リスクが大きくなりすぎるためだ。ただ複数の順張りファンドが横並びの行動を取ることで、かえって相場の変動を加速させ、損失を被る「合成の誤謬(ごびゅう)」を抱えている。
市場は異なった相場観を持つ様々なプレーヤーが存在してはじめて均衡を保つ。増えすぎた順張りファンドの存在は、市場が上昇局面でも下落局面でもオーバーシュート(行き過ぎ)する問題を引き起こしている。
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