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ネットCM止めさせるな! 冒頭でつかめ(日経MJ)

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年々市場が拡大するインターネット広告。その中でも動画広告の伸びが著しい。15秒や30秒という枠のあるテレビCMとは異なり、長さに制限がないだけに、どんどん長尺になりつつある。スキップされずに動画を見続けてもらうため、視聴者の心を一瞬でわしづかみにする動画CMならではの手法が生み出されている。

NIKKEI MJ

接着剤が恋愛モノに

「俺と…接着(キス)しようか」

こんなフレーズで始まる約2分のアニメ動画が2018年5月、ユーチューブで公開された。以来約7カ月間の再生回数は1000万回以上。タイトルは「君に、くっつけ!」。東亜合成の接着剤「アロンアルフア」のCMだ。

プラモデルが好きな女子高生、今直筑乃(いますぐ・つくの)と「学校一の接着(モテ)男」九津剛(くっつ・つよし)の学園恋愛ストーリー。SNS(交流サイト)上には「面白い」「芸が細かすぎる」などの書き込みがあふれる。国内で話題となったユーチューブ広告ランキングでは18年上半期で3位。自動車や飲料などのブランドのCMの中に割って入った。

現在動画CMは第3弾まで公開中だ。東亜合成接着剤部コンシューマ課の中島慶二課長は「若年層の知名度を上げるために動画CMに着目した」と語る。

製品の接着力をアピールしたこれまでのテレビCMと一線を画したのは、「卒業時などに『#アロンアルフア』とつけたSNS上の投稿があるのを見て、絆をキーワードにしたCMができないかと考えた」(同課の新藤茉莉主事)のがきっかけだった。

平均視聴時間、1年で1分長く

アロンアルフアの動画CMが象徴するのは、従来より長尺の動画でもスキップされずに話題を呼べる、という近年の傾向だ。

動画マーケティングのプルークス(東京・中央)の皆木研二社長によると、ユーチューブの広告トップ10の平均視聴時間は17年下期が1分46秒に対し、18年上期は2分53秒だった。

「動画CMは短いものが正しいとされてきたが、今は長くてもコンテンツが良ければ見られる傾向にある」(皆木社長)。その分、出だしにインパクトを出し、そのまま長時間見てもらう「キャッチ&ホールド」が重要になっている。

「そこのメガネのキミ!」(オフィス内の全員が立ち上がる)

「丸やなくて四角いメガネの」(何人かが座る)

18年にヒットした「カメラを止めるな!」でプロデューサー役を務めたどんぐりさん演じる社長が、名前を覚えていない社員を呼び出すため、最後の1人になるまで特徴を言い続ける。カオナビ(東京・港)のクラウド人材管理ツールの動画CMだ。「説教っぽさを感じず、『うちの会社でもそうかも』と気づきをえてもらえるような構成・表現にした」(同社)

「スキップ不可」も登場

ユーチューブで自動的に流れ出す広告を飛ばすための「スキップボタン」を逆手にとったのは、ニトリのふとんカバー「Nグリップ」の動画CM「スキップできない劇場」だ。画面上にあらかじめニセの「スキップボタン」を表示するつくりとなっており、視聴者はそこを押してもスキップできない。商品を「面倒な家事をスキップできる」として訴求したという。

調査会社ニールセンデジタル(東京・港)の18年3月調査では、動画広告によって商品を「購入した」ことがある人は17%。「若年層ほど動画広告によって態度が変わりやすい傾向」(高木史朗シニアアナリスト)が出ているという。

動画CMは制作費を除き、ユーチューブ向けでは月100万円程度からある程度効果があるものが出せるという。出稿が低コストで済むだけに、企業が内容を凝る余地が増している。カオナビのように企業向けサービスの出稿も多い。

電通などが18年3月に発表した調査によると、17年のインターネット広告費のうち動画広告は全体の約1割を占め1155億円。18年は17年比約40%増の1612億円に拡大すると予測していた。手軽さと間口の広さを強みとし、今後もネット動画CMは裾野を広げていきそうだ。

問題提起形で議論促す

ネット上で即座に話題にできるネット動画の特徴を生かし、社会問題を提起することを主眼としたCMも登場した。

中小企業基盤整備機構(中小機構)の動画CM「今日、部下が会社を辞める。」は全3分。前半で、上司が若手社員の退社あいさつを聞きながら、苦労して育てたことを回想する。「私はいい上司だっただろうか」というセリフとともに、「働くすべての人を、応援したい。」とのメッセージと、「中小機構」のロゴが出る。

良い話で終わりと思いきや、場面は急展開。その上司を他の部下が突き飛ばしながら、「勝手にいい話にするな! うちの会社、次から次に若手が辞めて。いいかげん気づけよ」と絶叫する。中小企業の新入社員の離職率の高さを示しながら、ITの導入を促すことがテーマだったのだ。

生産性向上、働き方改革が多くの企業の経営課題となっている。「たくさんの共感のコメントもいただき、中小企業の生産性向上やIT活用の必要性を知ってもらう大きなきっかけをつくることができた」(中小機構)

プルークスの皆木社長によると、社会問題を提起し視聴者の共感を呼び起こすようなストーリーも昨今の傾向という。消費を促す目的だけではなく、議論を呼びかけることを目的としたCMも今後は増えていきそうだ。

(小林宏行)

[日経MJ 2019年1月11日掲載]

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