2019年2月23日(土)

画家の生計、貸して立てます カシエ

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
スタートアップ
2019/1/10 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

画家という職業だけでは生計が立てられない人々を支援したい。こんな願いをビジネスにしたのがCasie(カシエ、大阪市)だ。利益を得る方法が分からない画家に代わって、預かった原画を法人や個人に貸し出す。「多くの人に芸術を楽しんでもらいたい」と話す藤本翔社長(35)の目標は「アートの民主化」だ。

レンタル制度で「アートの民主化を目指す」と話す藤本翔社長

レンタル制度で「アートの民主化を目指す」と話す藤本翔社長

京都市内のマンションの一階にある「カジュアルギャラリー」。カシエが預かる作品を一部展示しており、カラフルな原画が並ぶ。かわいらしい犬を描いたものから富士山、抽象画まで、置いてある作品のジャンルはさまざまだ。

ギャラリーや大阪府内にある倉庫には、カシエと契約をした画家の作品が預けられ、そこから顧客のもとに貸し出される。契約している画家は2018年11月時点で約320人、預かっている作品は約3500点。画家からは作品を預かるための費用は取らず、レンタルされた場合は料金の35%、購入された場合は料金の60%を報酬として画家に還元する。

鑑賞側には絵画の原画だけを貸し出す。個人は月額1980円と2980円の2つのプラン、法人は月額5300円のプランがある。法人では病院や介護施設のほか、オフィスの応接室、美容室、喫茶店などに貸し出しており、個人では玄関やリビングに作品が飾られることが多いという。貸し出した原画を顧客が気に入れば、購入することもできる。

藤本社長が力を入れるのが「職業=画家を増やし、創作活動の収入だけで生活できる人を増やすこと」だ。国内には職業が芸術家、または会社員などとして働きながら創作活動を行う人は約80万人いるものの、創作活動だけで生計を立てられる人はそのうちの10%に満たないという。

一方で、画家も絵画の売り方が分からないのが実情だ。個展やグループ展などは多数存在するものの、一般の人への認知度は低い。藤本社長は「美大や芸大では絵の描き方を教わるが、売れる絵の描き方や、売り方は教えてもらえない」と指摘。世の中の需要と、画家の認識がかみ合っていないと考える。

クリニックなどに絵画を貸し出し、患者がリラックスできる空間をつくる

クリニックなどに絵画を貸し出し、患者がリラックスできる空間をつくる

カシエでは、絵画を借りたユーザーからフォローバックをもらう仕組みを設けている。届けた絵画に100点満点で点数を付けてもらうほか、ジャンルのリクエストも受け付ける。顧客の需要を画家に伝え、テーマに合った作品を描いてもらうことで「売れる絵」を生み出す。

藤本社長が画家の支援に乗り出したのは、小学5年生のときに、35歳で亡くなった父の影響が大きい。父は画家で、「スーツの姿は見たことがない」。藤本社長が小学生の頃は、父の個展のビラを配った。「絵が売れるのはまれで、本当に厳しかった」と振り返る。母の仕事と、父が不動産屋などから請け負う建物の完成図を描く仕事で生計を立てていた。

「35歳までは父に生かしてもらった。これからはやりたいことをやろう」。商社とコンサルティング会社に約10年勤めたが、父が亡くなった年齢で一念発起すると決めた。画家を支援したいという気持ちはずっと心の中にあり、17年3月、カシエを設立した。

会社を設立後、最も苦労したのは作品の収集だった。作品を無料で預かり、レンタルまたは購入されれば画家に収入が入る――。これまでには存在しなかった仕組みで、若手の画家には警戒されたという。芸大や美大に直接行って学生と話したり、画家にギャラリーに来てもらったりして説得した。

19年4月には作品数が約6500点に増加する見込みだ。登録する側は小学生から90代までと幅広く、平均年齢は30代だ。会社設立から1年半がたち、画家の仕事だけで生計を立てる人も徐々に現れ始めた。

カシエでは、作品をレンタルすると画家を紹介するプロフィルシートが同封される。またインターネットを通じて、画家の好きな音楽なども公開し、ユーザーと画家の距離を縮める工夫を凝らしている。

こうした取り組みを通じて藤本社長が目指すのが「アートの民主化」だ。日本では芸術は「富裕層の趣味」「難しく理解ができない」と言われることが多い。藤本社長は「アートアレルギー大国だ」と表現する。

将来の目標はユーザーを10万人に拡大すること。「10万の空間にアートが飾られれば、次の影響力が期待できる」。絵画を多くの場所に貸し出せば、芸術のある空間で育った子供が増える。その子供たちが画家という職業に夢を持ち、創造性を発揮できる未来を創りたいと考えている。

(大阪経済部 田辺静)

[日経産業新聞 2019年1月9日付]

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