世銀総裁、孤立深め退任 米主導の後任人事混迷も

2019/1/8 16:53
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【ワシントン=河浪武史】世界銀行のキム総裁は7日、任期を3年残したまま2月1日付で辞任すると突如発表した。国際機関への資金拠出を絞るトランプ米政権と、財務リストラに反発する世銀本体との間で板挟みとなり、キム氏は孤立を深めていた。米政権は次期総裁の人選を急ぐが「米国第一」の色彩が強まれば、加盟国の反発で選任が混迷する懸念もある。

任期途中で辞任する世銀のキム総裁(18年11月、上海)=ロイター

任期途中で辞任する世銀のキム総裁(18年11月、上海)=ロイター

「貧困対策に従事できる特筆すべき組織の総裁を務めてこられたのは実に光栄なことだった」。辞任を発表したキム氏は、声明でその理由に全く触れることはなかった。同氏は「退任後、途上国のインフラ投資に力を入れる民間企業に転じる」というが、世銀の後任総裁の選定時期などは未定で、その辞任劇は唐突感ばかりが目立った。

韓国系米国人のキム氏は、オバマ前大統領の人選で2012年に世銀総裁に就いた。トランプ政権が誕生する前の16年秋に続投が決まり、17年7月から5年の任期で2期目に突入していた。18年4月にはトランプ政権を説得して8年ぶりの増資を決め、財務改善に道をつけたばかりだった。22年の任期満了まで3年強も残っている。

世銀幹部は「キム氏はトランプ政権と世銀内部の両方の圧力を受けていた」と明かす。トランプ政権は国際機関への資金拠出を絞り込んでおり、世銀に職員給与の圧縮など財務リストラを要求していた。「最大出資者である米政権の意向を無視できない」と、キム氏は財務改善を優先し、職員の出張経費なども大幅に削ったという。

米政権はキム氏に中国向け融資も縮小を迫った。世銀には加盟国の所得水準が上がれば支援を縮小する「卒業基準」がある。中国はその基準に抵触するが、いまだ主要貸出先の一つだ。一方で中国は、独自の広域経済圏構想「一帯一路」を掲げて、アジアやアフリカなどへの融資を増やしている。米国には「対外融資を増やす中国が、世銀から資金調達するのはおかしい」(財務省幹部)と不満を強めていた。

財務リストラを突き付けられた世銀内部からも、キム氏は強い反発を受けた。キム体制ではトランプ大統領の長女、イバンカ補佐官が発案した女性起業家向けの基金を設立するなど「米政権に擦り寄った」(世銀幹部)。中国向けの開発案件を絞り込む融資ルールの変更も断行。世銀内部には安定した資金の運用先だった対中融資の縮小に、反発もあったという。

「米国第一」を掲げるトランプ政権は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国連人権理事会など、意向に沿わない国際機関から立て続けに脱退を表明している。米政権は世銀や国際通貨基金(IMF)にも資金拠出の縮小などをちらつかせるが「脱退はありえない」(IMF高官)。米国は両機関の最大出資国で「議決の拒否権を持ち、ほかの国際機関と違って自在にコントロールできる」(同)ためだ。

世銀の総裁ポストは伝統的に米国が独占し、キム氏の後任人事もトランプ政権が主導して進むことになる。ただ、12年にはナイジェリア、コロンビアからもキム氏の対立候補が現れた。国際協調を軽視するトランプ政権への反発が強まれば、中国など新興国や途上国から対抗馬を擁立する動きも出てきそうだ。

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