不法労働者の「合法化」も 移民大国タイの曲折(IN FOCUS)
砂ぼこりが舞う郊外地に立つ鮮やかな黄色のコンテナ群。走り回る子どものはしゃぎ声に耳を澄ますとタイ語とカンボジア語が入り交じっている。タイの首都バンコク近郊の「コンテナ団地」には周辺国のカンボジアやラオス、ミャンマーから来た約700人の出稼ぎ労働者が住む。夕方になると、建設現場で1日汗を流した男女がトラックに揺られて戻ってくる。


コンテナの部屋は1世帯分が約2.5畳と決して広くない。それでも家賃はタダだし、子どもが通える「学校」も併設されている。「タイは給料がいいし、大きな街があって便利」。ここに住むカンボジア人女性のノイ・プットさん(24)は1歳半の長男アーティットちゃんをあやしながら話す。


実家の農家が借金漬けになり、12歳でタイで働き始めた。同じ建設現場で働いていたタイ人男性と結婚した理由の一つは子どもにタイ国籍を与えたかったからだ。「息子にはこの国で豊かな暮らしを送ってほしい」と願う。
隣国の豊かさを求めてやってくる移民たち。受け入れるタイ側にとっては貴重な労働力だ。1980年代に外資系製造業の進出や資源ブームで工業化が進んだタイでは、労働力が農業や土木、水産業から製造業などに流れた。その穴を埋めたのが移民だ。現在、移民労働者は労働人口の約1割にあたる330万人以上に上る。タイは東南アジアでもいち早く高齢化社会入りしており、移民労働への依存度は一層高まる見込みだ。



一方で周辺の後発国では経済発展が急ピッチで進む。移民労働者が出稼ぎ先に求める豊かさの水準は上がっていく。特に労働環境が過酷な建設や水産には風当たりが強くなる。コンテナ団地でも「子どもにはできれば土木以外の仕事に就かせたい」と話す親は多い。

タイでは2017年以降、人身売買や強制労働を取り締まるために移民受け入れの法整備を急速に進めた。国際社会の批判をかわすのが主な目的だったが、待遇改善による移民労働者のつなぎ留めの狙いもあった。それまで看過していた就労ビザや身分証を持たない不法労働者の「合法化」手続きを雇用主に義務付けた。「いつ取り締まられるかおびえる生活が変わった」。コンテナ団地に住むノイ・プットさんも合法化した一人だ。移民大国の風景は変わりつつある。

(文 経済部 小野由香子、写真 小高顕)