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地域医療 島に寄り添う 大鐘稔彦さん(もっと関西)

私のかんさい 医師・作家

■兵庫県淡路島の南端、南あわじ市の瀬戸内海に面した海岸沿いに立つ診療所の医師、大鐘稔彦さん(75)。診察を終え書斎に入ると聴診器を万年筆に持ちかえる。代表作はシリーズ累計171万部の「孤高のメス」。医師であり作家という二足のわらじのルーツは大学時代にある。

医学を志したのは、アフリカでの医療活動で活躍しノーベル平和賞を受賞した医師、アルベルト・シュバイツァーに憧れたからだ。京都大学医学部に入学し、医師への第一歩を踏み出した。

授業の一環で訪れた岡山県の瀬戸内海に浮かぶ島にあるハンセン病療養園で50代の女性患者に出会った。病気による差別を受けてきた女性の悲惨な人生に触れ、医療だけでは助けることができない現実に衝撃を受けた。「いわれなき差別があることを大勢の人に知ってもらいたい」と女性をモデルに小説を書き、新聞に掲載された。それまでも学内で友人と作った同人誌に小説を発表したり、懸賞小説を目標に原稿用紙千枚を書き上げるほど文学に思い入れがあり、創作をしてきた。

■大学卒業後、外科医としてキャリアを積むとともに医療をテーマに小説や漫画の原作などを執筆してきた。

神戸市内の病院を皮切りに複数の病院に勤務。極力出血を抑え、輸血をしないという高度な技術を要する手術を数々成功させるなど延べ約6千の手術を経験した。メスを持つだけではなく、ホスピス病棟を備えた病院の院長も務め、患者に寄り添う医療に取り組んだ。

一方、作家活動では外科医が主人公の漫画「メスよ輝け!!」の原作を手掛け、1989年より漫画雑誌に連載された。当時、認められていなかった脳死肝移植や地域間の医療格差など医療が抱える様々な課題を取り上げ、自分自身が持つ問題意識を作品の主人公に重ねた。同原作を小説にした「孤高のメス」は2010年に映画化された。少しでも難しい患者は大学病院に送る田舎の病院が舞台だ。劇中、経験豊富な主人公の外科医が、なぜ田舎の病院に来たのか問われ、地域医療のレベルアップのためと答える場面がある。医師を志した原点である「いつかはへき地医療に貢献したい」という思いを主人公のセリフに託した。

■転機は55歳の時に訪れた。南あわじ市に住む知人が、公立診療所の医師がすぐに辞めてしまい困っていると窮状を訴えてきた。

外科部長を務めていた病院を辞めることもあり、都会を離れる決意をした。そして、初心に帰り、医療過疎地域で役に立ちたいという思いで1999年1月、淡路島に向かった。

着任先は兵庫県が指定したへき地診療所。医師が長続きせず、着任前約40年で15人変わった。短い時は1年にも満たず、医師不在の時期もあった。医療機器は古くなっていた。

島では様々な症状への対処が求められる。漁でエイに指の皮膚を食いちぎられた漁師が来ることがあれば、真夜中に電話が鳴り、患者の最期をみとることもある。普段は医師がやらないX線撮影を行い、新たにマンモグラフィーの操作も習得した。高齢化した集落のどこに、どんな患者がいるのか自分で把握し、どんな病状の患者でもたらい回しにすることなく向き合うことに努めた。次第に失われた診療所の信頼を取り戻し、地域に受け入れられた。今では近所の漁師がタイやイカを、農家の人がタマネギを届けてくれる。休日には一緒に卓球をする親しい仲間もできた。

気がつけば島に来て21年目を迎えた。地域医療では、その土地に長く住み、地域の人たちに寄り添い続けることが重要だ。医師として島に骨をうずめる覚悟は移住した時から今も変わらない。現在手掛けている新作は淡路島を舞台に島で出会った人々をモデルにした。潮騒を聞きながらこれからも筆を走らせる。

(聞き手は大阪写真部 小川望)

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