2019年1月21日(月)

中国勢、貿易戦争を好機に(The Economist)

The Economist
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2019/1/9 2:00
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ワイシャツほど「お堅い」印象を与える洋服はあまりない。のりのきいたワイシャツは、派手なデザインがもてはやされた英エリザベス朝様式のひだ襟に代わって、ビクトリア朝の質実剛健さを象徴するものとなった。そして銀行員や日本のサラリーマン、書類を次から次へと処理し、部下をあごで使うような上昇志向の強い者を象徴してきた。

かつて中国は、人海戦術を武器にしてきたが、限界に達しつつある(2014年、縫製工場内の様子)

かつて中国は、人海戦術を武器にしてきたが、限界に達しつつある(2014年、縫製工場内の様子)

とはいえ、中国のシャツブランド「派(PYE)」のようなワイシャツの売り方をする店はめったにない。店員は採寸用メジャーではなく計算尺を持ち出してきそうな、つまり製造業を感じさせない雰囲気だ。「パイ」と読むブランド名は「中国語でセンスの良さを意味する漢字の『派』と、同音の数学定数である円周率π(パイ)を組み合わせた」という。同社はワイシャツに「ユークリッド」「ニュートン」といった西洋の数学者や、立ち襟のマオカラーシャツには「祖沖之」「劉徽」などの中国の数学者など、ファッションブランドらしからぬ名を冠している。

■中国国内で生産する体制を維持

パイブランドを所有する以外に、世界的ブランド「ヒューゴ・ボス」「トミー・ヒルフィガー」などのシャツの製造も請け負うこの中国のエスケルグループ(溢達集団)は、シャツのことだけでなく、約5万6000人に上る従業員の経済的地位の向上にも真剣だ。その半数は中国の工場で働いており、繊維・アパレル企業としては珍しく、賃上げと自動化による生産性向上に積極的だ。民間企業のため、儒教的な長期的視野に基づいた経営が可能だ。だが、これは需給が逼迫した労働市場や米中貿易戦争を見据えた冷静な判断ゆえの対応でもある。

人手不足と貿易戦争という逆風を受け、通常なら中国製造業の将来は厳しいと判断しがちだが、他の多くの中国企業もこれを逆手に自社の競争力強化に結びつけようと動いている。

アパレル産業は労働環境が厳しく(特に競争の激しい中国では)、画期的な手法が誕生するといったビジネス的成功例はあまりない。供給網のコスト、納期などの条件も過酷だ。単純作業の繰り返しで、出来高に応じてしか報酬が払われないことも労働者の意欲をそいでいる。

繊維のように柔らかい素材の機械加工は難しい。しかもエスケルが作るシャツは、袖や袖口の縫い付けなど手間のかかる作業が最大で65工程もある。繊維・アパレル企業は人件費が上がるとすぐに、労働力がもっと安いバングラデシュやエチオピアなどに生産を移すのが常だ。だがエスケルは、主に中国で生産する体制を維持しようとしている。

中国の人件費の高騰や離職率の高さ、高齢化に悩まされているのは繊維産業だけではない。電子産業なども同じで、対米貿易戦争と相まって業況は一段と悪化している。日本企業は、中国からの輸出品への米国の追加関税を避けるため、カーラジオなどの自動車部品の生産拠点を中国からメキシコへ移管したと報じられている。

だが米国が対中関税をさらに引き上げても、多くの中国企業は生産の自動化を進めれば競争力を維持できると信じている。中国が2017年に導入した産業用ロボット数は前年比59%増の13万8000台に上った。これは米国と欧州の導入数の合計を上回る。中国は米トランプ政権の懸念を払拭しようと、米国が警戒するハイテク産業育成策「中国製造2025」の追求をかつてほど声高に主張しないが、既存産業の自動化支援には惜しみなく資金を投じており、中国のロボット革命の動きが止まることはないだろう。

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