削り極限 理想の走り 自転車フレームのナカガワサイクル(もっと関西)
ここに技あり

関西タイムライン
2019/1/7 11:30
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鉄のパイプを自在に加工し乗り手に合ったスポーツ自転車を手作りするフレームビルダー。ナカガワサイクルワークス(大阪府寝屋川市)の中川茂さん(70)は数多くの五輪選手にフレームを提供した実績を持つ第一人者だ。独自の技術で乗り心地を追求したオーダーメードフレームは国内外に多くのファンを持つ。

組み立てたフレームを寝かせ、抱え込むようにやすりをかける

組み立てたフレームを寝かせ、抱え込むようにやすりをかける

オーダーの際、顧客から寄せられるのは「もっと軽く」「もっと伸びるように」といった感覚的な要望だ。漠然としたイメージを一人ひとり異なる体形や、自転車に乗る姿勢や癖まで勘案したうえで、具体的な数値に換算し、1台の自転車に落とし込む。

例えばペダルひとこぎで、より「伸びる」ためにはパイプの厚みを0.1ミリ増やして剛性を上げたり、ハンドルの根元と前輪をつなぐ上部の角度を詰めたりする。

技を支えるのは、45年以上自身で運営する自転車レースチームだ。アマチュアだが国内の主要レースで優勝も経験した。選手たちが中川さんの自転車で走り、結果を製作に反映させる。このサイクルを繰り返し、ノウハウを積み重ねてきた。海外のビルダーも視察に訪れる。

5千台以上の製作で培った加工技術はもう1つの強み。例えば鉄の磨きの仕上げに使うのは紙やすりだ。切削工具を使えばあっという間の作業だが、紙やすりを手に何度もフレームに磨きをかける。やすり越しに手先でフレームの厚さを測りながら、強度と軽量化のバランスをぎりぎりまで探る。

頼りになるのは「感覚と感性だけ」。例えば、フレームの中心にわずかな左右のズレがあれば、直進しているつもりでも自転車は曲がってしまう。トップ選手ならフレームの1ミリの誤差も感じ取る。パイプは溶接や表面を削る工程を経て、中心が微妙にずれていることがある。中心を貫く「芯」の基準になるのはサドルを支える直径28.6ミリのパイプの中心の1点だ。

中川さんは水平の作業台に据え付けた自作の武骨な器具にフレームを固定する。パイプの中空の1点をみつめながらテコの原理を使い、フレームに器具を押し当て、一つずつずれをなくしていく。正確な作業の積み重ねだけが独特の乗り心地に結実する。

長年工夫を重ねても「まだ改良の余地がある」と中川さん。最近は「より精密な溶接ができるように、使うガスを金属切断用のものに変えてみた」という。また、軽さと乗り心地を両立させるべく、カーボンと鉄を1本のパイプとして組み合わせる技術を研究している。長い歴史がある自転車をさらに前進させる。中川さんの挑戦は続く。

文 大阪・文化担当 佐藤洋輔

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと 鉄パイプが鈍く輝く工房で、ピンクの帽子が目を引いた。レース場で目立つよう、フレームを同色に塗装することも多いそうで、イメージカラーという。シャッ、シャッ、シャッ。愛用の帽子姿で黙々とやすりをかける中川さん。フレームを抱え込むようにしながら心地いいリズムを刻む様子は、我が子を世話しているように見えた。
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