2019年9月22日(日)

G20日本へ 悩み多きホスト役 (2019ニュース羅針盤)

2019ニュース羅針盤
2019/1/1 6:00
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2019年は日本が20カ国・地域(G20)会議で議長国を務める。世界経済のリスクが山積するなかで、新興国を含めた世界経済の安定成長への道筋を探る。議長国として議論を集約し、問題意識の共有を深められるかが焦点となる。

大阪でのG20は米中対立のなかで議論を深められるか、議長国の日本の責任は重い
イラスト 大島裕子

大阪でのG20は米中対立のなかで議論を深められるか、議長国の日本の責任は重い
イラスト 大島裕子

◆米中対立が世界のリスク 両国取り持ち、日本に期待

G20会議は08年に首脳会議が開かれて以来、日本が議長を務めるのは初めて。1月から会議が相次ぎ、6月8~9日の財務相・中央銀行総裁会議と、6月28~29日の大阪での首脳会議がヤマ場。昨年12月にアルゼンチンからバトンを引き継いだ麻生太郎財務相は「世界経済の課題に各国と連携して取り組む場として再活性化する責務と使命を担っている」と強調した。

麻生氏の「再活性化」という言葉には含みがある。G20はもともと自由貿易を推進していたが、経済大国である米国が保護主義の姿勢を強め、「1対19」とも呼ばれる構図になった。溝は埋まらぬまま、世界経済の成長に向けた建設的な議論は進まなかった。

米中の対立は単なる貿易摩擦ではなく、知的財産権や途上国開発も交えた覇権争いの様相を呈している。米国は中国へ関税引き上げを巡っては2月末までの猶予を与えているが、すぐに貿易戦争が収束する雰囲気は乏しい。G20会議でも円満に全参加国で声明を出すことは難しいだろう。

だが議長国日本に求められる役割は大きい。安倍晋三首相はトランプ米大統領と友好な関係を保つ。一方で中国は米国との対立が強まるにつれ、「日本に接近してきた」(政府関係者)。昨年10月には北京で日中首脳会談が開かれ、様々な経済協力を結んだ。12月のアルゼンチンでのG20会議では安倍首相が「建設的役割」とし、米中首脳に歩み寄りを訴えた。

議題は多くあるが焦点の一つはグローバルインバランス(経常収支の不均衡)の是正だ。経常収支の赤字は米国が断トツに大きい。貯蓄不足が根っこにあり、国際通貨基金(IMF)の見通しでは今後もさらに拡大していく。

日本側が訴えるのは不均衡は2国間の交渉では解決できない点だ。中国からの輸入が減っても、別の国からの輸入に頼るだけで全体の不均衡は是正しない。2国間ではなく世界全体で問題を捉えるとともに自国内の貯蓄・投資のバランスを見直すという構造面の改善を提起する。この議題の設定は米国も受け入れている。G20で理解を得られれば、対日も含めた2国間の貿易交渉から保護主義的な色合いが薄まる可能性もある。

もう一つの焦点は途上国のインフラ開発だ。中国が「一帯一路」のもと、アジアやアフリカの低所得国への融資を増やした。だが債務が急増する中で開発計画も不十分で、港湾や鉄道の開発が頓挫する事例が相次いだ。不透明な融資の規模や実態を把握するとともに、債権国と債務国の双方に融資の規律を高めるよう促す。経済成長や社会基盤の持続性も保てるように開発計画も「質の高いインフラ」を目指すよう提唱する。

(後藤達也)

◆プロの読み 国際通貨研究所理事長 渡辺博史氏

あいまいな合意より論点の明示を

 わたなべ・ひろし 1972年(昭47年)東大法卒、旧大蔵省(現財務省)入省。2004年7月~07年7月財務官。08年に日本政策金融公庫副総裁。13年に国際協力銀行総裁。16年10月から現職。東京都出身。69歳。

わたなべ・ひろし 1972年(昭47年)東大法卒、旧大蔵省(現財務省)入省。2004年7月~07年7月財務官。08年に日本政策金融公庫副総裁。13年に国際協力銀行総裁。16年10月から現職。東京都出身。69歳。

米中の対立が深まるなか、保護主義やインフラ開発、デジタル税制など難しい議題に向き合うことになる。すべての参加国が具体策に合意することは考えづらいが、各国首脳・当局者が一堂に会する貴重な場でもある。いかに論点を整理していくか議長国としての手腕が問われる。

G20首脳会議が始まった2008年は金融危機があり、各国の問題意識は共有されやすく、財政や金融面での対応策も打ち出せた。だが、貿易や開発、環境などに話が広がると利害の対立が起こりやすくなった。特に米国でトランプ政権が誕生してからは合意が一段ととりづらくなった。昨年12月の首脳会議では共同声明から「保護主義に対抗する」との文言が削除された。

米中の対立は貿易だけでなく、AI(人工知能)システムでの覇権争い、知的財産権やインフラ開発などでの競争に移っている。ペンス米副大統領が述べたように対中批判は厳しくなっており、事態は半年前よりも深刻になっている。関税を巡っても短期間で収束することは見通せない。

だからといってG20会議を開くことが無意味というわけではない。米中首脳会談もワシントンや北京で開くには調整が難航しそうだが、G20会議という場があれば首脳会談を開くきっかけにもなるという点は評価できる。

保護主義やインフラ開発などを巡り、会議で合意に至らなくてもどういう論点が出たのかを明示すべきだ。合意できた最大公約数を声明で書いても、抽象的でほとんど意味のないものになる。G20会議は翌年以降も開くわけで、なにが争点だったかを具体的に示し、議論を持ち越すこともできる。

議長国なので議論をリードできる。各論について日本としての立ち位置を明確にしたうえで各国の意見を吸い上げることが大切だ。

貿易や税制をめぐる議論の進展を期待する。世界で法人税の引き下げ競争が収まらなくなっている。国際的に活躍する企業の実効税率が10%を下回る例も出ている。世界全体で連携してある程度の法人税率を確保しなければ財政面だけでなく、一部の大企業が潤うことで格差も助長する恐れがある。

デジタル課税ではグローバルなIT(情報技術)企業は物理的な拠点もなくどの国が課税すべきか難しいという問題がある。税制も合意の難しいテーマだが明確に問題提起したほうがいい。

このほか、日本政府は高齢化社会における財政・金融政策や国民皆保険の実現に向けた課題なども議題に掲げるとしている。これらは日本がいち早く経験した課題であり、新興国にとっても将来避けられない問題だ。日本の対応策がそのまま各国に当てはめられなくとも、早い段階での制度設計の必要性を問題意識として促すことで新興国の安定成長に貢献できるはずだ。

◆デスクの補助線 経済部次長 野々下和彦
機能せぬG20に危機防げるか
20カ国・地域(G20)会議は2018年が創設10年の節目の年だった。08年9月に米大手証券会社のリーマン・ブラザーズが破綻し、世界は金融危機と不況に陥った。日米欧の主要国や中国など新興国の首脳を緊急招集したG20サミットが08年11月に初めて開かれた。この時のG20は危機を封じ込めるため政策協調で一致結束できた。
 それから10年。リーマン危機は労働者ら中間層の没落を加速させて、米欧で大衆迎合主義の政治を生んだ。怒った労働者は16年の米大統領選で既存政治の打破や米国第一主義を掲げるトランプ氏を大統領に押し上げた。そしてトランプ政権は米国の覇権を脅かす存在とみて中国を敵視する政策に転換し、貿易戦争をしかけている。
 保護主義の台頭、世界の低成長、債務の膨張、デジタルマネーの興隆と暴走――。G20会議で議論される重要な問題の多くは10年前のリーマン危機を起点として始まった。18年12月にアルゼンチンで開かれたG20首脳会議は米国の主張を丸のみして宣言から「反保護主義」の定型句を落とした。G20は政策協調で半ば機能不全に陥っている。
 危機は常に姿を変えてやってくる。G20は新しいリスクに備えることができるのか。19年に議長国となる日本の責任は重い。

〔1月1日付日本経済新聞朝刊〕

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