ユーロ20年、冷めた熱狂 域内格差の解消遠く

2018/12/30 22:45
保存
共有
印刷
その他

【ブリュッセル=森本学】2019年1月1日に導入20年を迎える欧州の単一通貨ユーロ。ギリシャの離脱の可能性まで議論された債務危機をひとまず乗り切り、11カ国で始まったユーロ圏は19カ国まで拡大した。だが歴史の節目を祝う熱狂ムードはない。危機を招いた域内不均衡という問題への対応は道半ば。足元では主要国のイタリアやフランスでもポピュリズム(大衆迎合主義)が勢いづくなど逆風が吹く。

通貨ユーロ導入20年を祝うドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁(中央)ら=ロイター

「通貨統合が全ての国で期待された利益をもたらしたわけではない」。15日、イタリア北部ピサでユーロ20周年の記念講演をした欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はユーロが抱える課題を率直に認めた。

ルーマニアなどユーロ加盟をめざす国は限られ、ユーロ圏拡大の機運は盛り上がりを欠く。「米ドルが唯一の通貨の時代は終わった」(サルコジ元仏大統領)と勇ましい言葉が飛び交った10年前の雰囲気とはほど遠い。

通貨統合の最終目標のひとつがユーロ圏内の経済収れんだ。しかし20年の道のりを振り返ると、主要国のドイツとフランス、イタリアで明暗が大きく分かれた。

1人あたり名目国内総生産(GDP)では、ユーロ圏(19カ国ベース)平均との差額をみると、ドイツは17年の超過額が6700ユーロと1999年の約1.5倍に拡大。一方で、フランスは1300ユーロと99年から44%減少した。イタリアは99年時点でユーロ圏平均を300ユーロ下回っていたが、17年はそのマイナス額が15倍に膨らんだ。

ユーロ相場は域内全体の経済状況などを反映して決まる。ドイツ経済が好調でも、他の加盟国が低迷していればユーロ安が進み、輸出依存度が高いドイツに追い風が吹く。「ドイツ一人勝ち」ともいわれる理由だ。

イタリアなど南欧ではユーロ導入で通貨切り下げによる景気テコ入れを封じられたことへの不満が渦巻くが、競争力を高めるための労働市場改革を進めてこなかったツケが回ってきた面もある。

「欧州の病人」。99年のユーロ導入時のドイツは経済低迷に苦しんでいた。復活の礎となったのが、03年に当時のシュレーダー政権が打ち出した労働市場改革だ。雇用を維持するかわりに労働者の賃金の上昇を抑える改革を断行した。

競争力の指標のひとつである単位労働コストをみると、ドイツはユーロ導入後、08年まで99年とほぼ同水準に労働コストを抑えたが、フランスとイタリアは大きく上昇。今の経済力格差の原因をつくった。

イタリアでは6月にポピュリズム政権が誕生し、フランスではマクロン大統領が進める労働市場改革への反発が広がる。仏伊の挽回はさらに厳しさを増す。

「すべての国が(ユーロの)恩恵を受けている」。ドラギ総裁が強調するのが、域内のサプライチェーン(供給網)の深化だ。単一通貨によって為替リスクに対応する費用がなくなり、域内の統合が加速。イタリアでは他のEU加盟国からの直接投資が92年から10年にかけて36%増えたという。

もう一つの恩恵は、政府の利払い費負担の軽減だ。08年秋のリーマン危機や10年の欧州債務危機がユーロ圏を襲うなか、ECBの異例の金融緩和がユーロ圏諸国の08~16年の利払い費負担を約1兆ユーロ削減した、とドイツ連銀は試算している。

ユーロ圏は危機時に加盟国を支援する常設基金である欧州安定メカニズム(ESM)を創設した。EU基本条約上は禁じていた加盟国への財政援助・金融支援に道を開き、危機時の耐性を強化。域内でバラバラだった金融機関の監督なども一元化した。

だが、平時から危機を予防するユーロ改革は道半ばだ。「通貨はひとつだが、財政はバラバラ」というユーロ危機にもつながった根本問題の解決への道筋が描けていない。

EU首脳は14日、19年6月にユーロ圏共通予算の大枠を示すよう財務相らに指示した。共通予算はドイツやオランダなど豊かな北部欧州から南欧に財政資金を移す財政統合への一歩につながるともされるが、具体的な進展は19年5月の欧州議会選で「反EU」を掲げるポピュリズム勢力の発言力をどこまで抑えられるかにかかっている。南欧のモラルハザード(倫理の欠如)につながるとの北部の懸念も強い。

ユーロにとって数少ない明るい材料は市民の支持だ。欧州委員会が毎年実施する世論調査で、18年はユーロが「欧州全体に好ましい」とする回答が74%に達し、02年の調査開始以来、最も高い水準を記録した。イタリアのポピュリズム政権も一時ちらつかせていた「ユーロ離脱」を封印。根強いEU市民のユーロ支持を改革の前進につなげられるか。国を超える通貨という実験は続く。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]