自転車運転、はねていなくても「ひき逃げ」認定
自転車に乗って人身事故を誘発したにもかかわらずその場から逃げたとして、警視庁は2018年11月、30代の医師の男を重過失傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで書類送検した。医師はイヤホンをつけたまま運転し車と接触。急ハンドルを切った車がその直後に女性をはねた。
同庁幹部によると、直接人をはねていない事故の関係者が、ひき逃げで立件されるのは「極めて珍しい」。同庁は起訴を求める厳重処分の意見をつけた。

事故は東京都大田区で18年5月中旬の午前8時ごろ発生。都内の医師が運転する自転車が一時停止の義務を怠り交差点に進入、乗用車に接触した。避けようと急ハンドルを切った乗用車が近くにいた自転車の40代女性をはねた。女性は脳挫傷で一時重体となり、現在も通院中という。
医師は事故後に壊れた自転車を放置し、タクシーに乗って立ち去った。医師は「車にはぶつかったが、女性がけがをしたのは知らない」と供述したが、同庁は医師が女性のけがを認識していたと判断。同庁幹部は「医師が安全をしっかり確認しなかった結果、事故が起きた。けがをした女性の救護義務も怠り、悪質だ」と話す。
道路交通法は交通事故があった場合の措置について「事故に係る車両の運転者や乗務員は直ちに車両の運転を停止し、負傷者を救護するなど必要な措置を講じなければならない」などと規定。救護義務などを怠って立ち去ると「ひき逃げ」となる。「車両」には自転車などの「軽車両」も含まれている。
交通問題に詳しい加茂隆康弁護士は「交通事故の関係者は自分が人をはねていなくても、今回のように事故を誘発した場合にはけが人の救護義務が生じる。何もせずに立ち去れば『ひき逃げ』に問われる可能性がある」と説明。「自分が事故に関係しているか曖昧な場合でも、救護すべきだ」と指摘する。
また、加茂弁護士は「イヤホンをつけて外部の音を聞こえないようにするのは運転をする上で極めて危険」とも強調する。「イヤホンをつけたり、傘を差したりしたまま自転車を運転し、事故の原因をつくった場合、過失を問われる可能性は高い。乗用車と同様に運転には注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。
酒に酔って正常な運転ができない状態で自転車を運転すれば、道交法違反(酒酔い運転)となり、車同様に5年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い罰則が定められている。