参院選、野党の本格共闘に温度差 (2019ニュース羅針盤)

2019ニュース羅針盤
2019/1/2 6:00
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夏の参院選は野党の候補者調整で与党との勝負の土俵が整うかが焦点だ。2016年の参院選では当時の民進、共産、生活、社民の4党が乱立を避けて改選定数1の1人区で候補者を一本化。2勝29敗と大敗した13年参院選から11勝21敗と挽回した。

複数区・比例における候補者調整では、立憲民主党と国民民主党の意見は異なる
コラージュ 内海悠

複数区・比例における候補者調整では、立憲民主党と国民民主党の意見は異なる
コラージュ 内海悠

◆1人区は一本化へ調整も 複数区・比例で異論

定数6増の改正公職選挙法が18年7月に成立して今回から改選定数が3つ増え、過半数は123となる。国会で共闘する野党6党派は1人区で候補を一本化し、与野党一騎打ちの構図にする方針だ。各選挙区で調整が本格化し、大分では無所属新人を立憲民主党や国民民主党、社民党が推薦する枠組みをつくった。

課題は共産党と他党との関係だ。16年参院選では共産党が安全保障関連法の廃止をめざす野党勢力を拡大する大義を掲げ、1人区で一方的に候補者擁立を見送った。今回は候補者調整の前提として「相互推薦・相互支援」を強く求めている。

立民や国民は日米同盟など安全保障観が異なる共産党と推薦し合うのは抵抗感が強い。安保法廃止を主張する市民グループ「市民連合」を介した緩やかな共闘を探る。

一方、改選定数2以上の複数区は立民が原則すべてに候補を擁立する方針を決めている。枝野幸男代表は「複数区は切磋琢磨(せっさたくま)する」と明言する。

与野党が1議席ずつを「指定席」としてきた2人区も例外ではない。静岡や茨城、広島は国民、京都は共産党の現職がおり、野党候補が乱立し与党が2人擁立すれば、野党が共倒れになる可能性もある。国民の玉木雄一郎代表は「与党に漁夫の利を与える」と語る。

比例代表は労働組合の連合から「統一名簿構想」に期待する声があがる。立民は党の独自性を重視し受け入れていない。

与党は改選する13年の参院選の大勝の反動が予想され、危機感が強い。18年9月の総裁選で安倍晋三首相が石破茂元幹事長に党員・党友の地方票で善戦を許したことも、地方では安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成果が浸透していないことを反映しているともいえる。

今回は12年に一度、春の統一地方選と重なる年で、参院選の時期に選挙疲れが広がる懸念がある。自民党執行部は18年中に候補者を決め、早期に浸透させる戦略をとる。

選挙で訴える実績づくりにも取り組む。直後の10月に消費税率の10%への引き上げが控える。首相は増税を早々に既定路線化し、キャッシュレス決済時の5%のポイント還元をはじめ経済対策にも手を打っている。

選挙直前に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議は首相が議長として外交手腕を発揮する見せ場となる。来日するロシアのプーチン大統領との首脳会談で平和条約問題を前進できれば得点になり得る。自民党内では参院選の苦戦を巻き返すための「衆参ダブル選」もささやかれる。

(地曳航也)

◆プロの読み 政策研究大学院大学教授 竹中治堅氏

首相は支持安定 リスクは景気動向

 たけなか・はるかた 1993年東大法卒、大蔵省へ。スタンフォード大博士。専門は比較政治、国際政治経済。政治の決定過程を研究する。主な著書に「首相支配」「参議院とは何か」。47歳。

たけなか・はるかた 1993年東大法卒、大蔵省へ。スタンフォード大博士。専門は比較政治、国際政治経済。政治の決定過程を研究する。主な著書に「首相支配」「参議院とは何か」。47歳。

夏の参院選は基本的に2017年10月の衆院選以降の安倍政権の成果を問うものだ。選挙の直後に予定する消費税率10%への引き上げのほか、働き方改革、社会保障制度の全世代型への改革、教育無償化、外国人労働者の受け入れ拡大などの実績が問われる。

安倍晋三首相は参院選直前に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせたロシアのプーチン大統領との首脳会談までに北方領土問題の打開をめざしている。これまでの4島返還の立場を変更し色丹島と歯舞群島の「2島先行返還」で決着する急展開があれば、国民の判断を仰ぐ材料になり得る。

問題はばらばら状態の野党が安倍政権の批判票の受け皿としてまとまりきり、代わりとなり得る対案を示せるかだ。

内閣支持率は安定している。野党が少なくとも改選定数1の1人区で候補を一本化できなければ話にならない。共産党が全選挙区に候補を出せば、野党の票が割れ、与党に有利になるだけで事実上の自民党の補完勢力になる。資本主義を否定し、共産主義を目指す綱領を見れば、立憲民主党も国民民主党も一定の距離を置かざるを得ず、より現実路線を取るべきだ。

野党が有権者に訴えかける対案を用意するのも簡単ではない。首相は大学生への給付型奨学金など旧民主党がとってきた政策を取り込んでいるためだ。よほど斬新なアイデアを出す必要がある。

例えば公教育の拡充のため、教員の給与を引き上げる政策を打ち出してはどうか。一方で実績も求めてアメとムチのバランスをとる。新しい時代に即して、小学校以降の教育の抜本的見直しを掲げてもいい。小学校から方程式やプログラム言語を教え、大学も文理融合にしてコンピューターサイエンスは必須にする。

野党がまとまり、対案を出せても、いまの首相の支持率や自民、公明両党の現有議席を考えれば、与党を過半数割れに追い込むのは難しい。その意味で、首相の最大のリスクは景気動向だ。米中貿易戦争など世界経済には不確実性がある。

衆院選とのダブル選はないとみる。参院選の結果、首相が退陣に追い込まれる事態は考えにくいものの、今回改選する13年参院選の大勝の反動で、自民は議席を減らすだろう。首相は参院選後の求心力を維持するため衆院解散カードを温存したいと考えるはずだ。20年の東京五輪・パラリンピックの直後に解散し自民党総裁4選を狙う可能性は十分ある。

参院で憲法改正に必要な3分の2の議席を自民党など改憲勢力で維持するのは難しいのではないか。改憲の実務的な必要性は薄まっている。選挙の結果、実現可能性は低くなり、首相が多くを犠牲にしてまで改憲をめざすかと言えば疑わしい。

◆デスクの補助線 政治部次長 桃井裕理
投票率高める論争を
 国政選挙や地方選挙で低投票率が続いている。2013年参院選は戦後3番目の52.61%、16年は戦後4番目の54.7%だった。衆院選も戦後最低や戦後2番目などの記録が続く。
 人が選挙に熱くなれるのは、そこに選ぶ意義があるからこそだ。低投票率の責任は、政治への期待や関心を高められない与党だけでなく、魅力ある選択肢を提示できていない野党の側にもある。
 今回、野党共闘をめぐり立憲民主党と国民民主党が複数区の候補者調整で意見を異にしている。両党の論争は「今後、各党が国民にどんな形でどのような選択肢を示していくのか」という本質的な問題にもかかわる。各党がまとまれば足元では「NOT安倍」という大きくわかりやすい選択肢をつくることはできる。一方、各党がそれぞれ何を目指すかはみえにくくなってしまう。立憲民主党はまずは党の姿をわかりやすく示し、時間をかけてでも国民に浸透することを優先しているのだろう。その戦略が吉とでるかは訴え次第だ。
 旧民主党の発足から政権奪取まで11年間を要した。今回はゼロどころかマイナスからのスタートだ。信頼回復には実績の積み上げが必要だ。国民が「どちらを選ぶか」熱くなれるような選択肢となれるか。投票率は野党復活のバロメーターでもある。

〔1月1日付日本経済新聞朝刊〕

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