2019年4月23日(火)

つながる100億の脳 常識通じぬ未来、「人類」問い直す
新幸福論 Tech2050

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2019/1/1 0:00
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テクノロジーの進歩が速度を増し、人類は2050年に肉体や能力の限界を超える。幸福のあり方も根底から覆る未来。岐路に立つ人類は新たな価値観を創り出すときに来ている。

社会に溶け込みやすい子供型ロボットとして開発された「ibuki」(大阪府豊中市の大阪大学)

社会に溶け込みやすい子供型ロボットとして開発された「ibuki」(大阪府豊中市の大阪大学)

人体最後のフロンティアとされる脳。人間が人間であるゆえんでもある脳の潜在力が解き放たれようとしている。

米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室でアリソン・ムオトリ教授が5ミリメートルほどの白い物体を見せてくれた。培養液を満たした皿にあったのは、人間の様々な細胞や組織に育つiPS細胞から作った「人工脳」。受胎後25~38週の赤ちゃんの脳と似た脳波を確認したとき、ムオトリ氏自身も驚いたという。

山中伸弥京都大学教授らがヒトiPS細胞の作製に成功したと発表したのは2007年。10年余りで人類は脳を作り出す未来をたぐり寄せた。

脳科学の世界的権威、クリストフ・コッホ米アレン脳科学研究所最高科学責任者は「事故や病気で脳が損傷しても人工脳で一部を置き換えられる可能性がある」と話す。脳の潜在力を大きく押し広げるテクノロジーはこれにとどまらない。

「複数の人の脳を安全につなぎ問題解決した初の例だ」。3カ月前、米国のワシントン大学とカーネギーメロン大学の研究チームがまとめた研究成果。3人の脳を特殊なヘッドギアなどで結び、脳波を通じて「テトリス」に似たゲームを共同でこなす様子を詳述した。

脳と機械、そして脳と脳をつなぐブレイン・ネットワーキング。この分野の先駆者であるミゲル・ニコレリス米デューク大学教授は「脳同士が会話できれば言語すらも省略できる」と話す。50年の世界人口はおよそ100億人。時間や場所の制約も越え、人類のコミュニケーションや知の探求は速度と広がりを増す。

人類が手にする脳を巡るテクノロジーは様々な問いをはらむ。意識を持つ人工脳は物体か人体の一部か。悪意のある情報に人間が操られないか。「何をすべきで何をすべきでないのか、決めておく必要がある」。コッホ氏は倫理的な課題と向き合うべきだと語る。

人類の長い進化の歴史はテクノロジー抜きには語れない。とりわけこの30年の変化は劇的だ。

03年には国際的な協力で人間のゲノム(全遺伝情報)解読が完了。米国立衛生研究所(NIH)によると、1人分のゲノム解読コストは01年の9500万ドルから17年には1100ドルに下がった。

そして1990年代に普及したインターネットは人類にサイバーという空間を作り出した。今のスマートフォンの性能は30年前のスーパーコンピューターを大きく上回るようになった。

人類の歴史上、これまでの30年のテクノロジーの変化は急速だったが、これからの30年でさらに加速する。現在のスパコンの性能をはるかにしのぐ量子コンピューターが使われ、人間の知性を人工知能(AI)が超える「シンギュラリティ」の到来も予想される。

これまでの30年、テクノロジーは人類に利便性や豊かさをもたらした。これに対し、これからの30年は人間のあり方や社会システムの根本的な問い直しを迫る。山極寿一京都大総長は「50年までの技術進化で人類は転換期を迎える」と話す。

遺伝子を操る技術が人類の夢だった「不老」の扉を開き、AIの進歩が労働や学びの再定義へと駆り立てる。そして人間と機械の境界も崩れる。

ibuki(イブキ)と名付けられた身長120センチメートルのヒト型ロボットは10歳ほどの子供を想定して誕生した。歩行する人体の動きを再現し、ほほ笑みなど表情の変化も見せる。大阪大学などの開発チームが目指すのは人間社会にロボットが当たり前にいる未来。子供型であれば、受け入れる人間も寛容になれるという。次の成長に向けて人間との対話能力を磨く。

「人間の定義は技術の進展に応じて変わる」。プロジェクトのリーダーである石黒浩大阪大教授はこう語る。「いま必要なのは自分自身は何者なのか考えることだ」

テクノロジーの進化が生き方や社会の仕組みを変える。人間とは何か。答えを探る道が始まる。

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