新種のヘビの発見場所はヘビの腹 42年間謎は解けず

これまで見たこともないようなヘビが見つかった。場所はメキシコ。だが、森を這っていたわけではない。なんと別のヘビの腹の中から見つかった。このヘビは、学術誌「Journal of Herpetology」に2018年11月27日付けで発表された論文で、新種として記載され、Cenaspis aenigmaという学名を与えられた。ラテン語で「cena」は食事、「aspis」はヘビの一種、「enigma」は謎という意味なので、「謎の食事ヘビ」ということになる。
新種のヘビには、頭骨の形や生殖器、尾の下の模様など、近縁のヘビたちとは異なる独特な特徴がある。
生きて見つかったことのないヘビ
骨格と歯の特徴から、Cenaspisは穴に住み、昆虫やクモを食べるものと考えられている。ただし、この研究を率いた米テキサス大学アーリントン校の爬虫両生類学者ジョナサン・キャンベル氏によると、このヘビはこれまで生きた状態では見つかったことがないので、エサや生息場所を厳密に特定するのは難しい。
探しても見つからない状況は、42年も続いている。1976年、メキシコ南部のチアパス州の深い森の中でヤシの実を収穫していた人々が、チュウベイサンゴヘビ(Micrurus nigrocinctus)を見つけた。神経毒をもつ鮮やかな色のヘビだ。研究者がこのヘビを調べたところ、腹の中から一回り小さい別のヘビが現れた。

体長25センチほどのオスのヘビは、既知のどの種とも一致しない特殊なヘビだった。そのため、標本は博物館のコレクションとして保管されることになった。研究チームは、数十年にわたって合計10回以上は発見場所を訪れたが、いまだに生きたヘビは見つかっていない。
「これほど見つけにくいヘビもいるという証拠です」とキャンベル氏は言う。「もともと人目につきにくい習性であるうえ、狭い範囲にしか生息していないので、めったに姿を現すことがないのでしょう」
キャンベル氏は、このヘビが見つからないのは70年代以降に絶滅したためとは考えていない。今もチアパス州のどこかに生息しているが、穴の中で暮らしているなどの理由で見つけられないのだろうという。
奇妙な特徴
このヘビの腹側は、小さな三角の模様が連なって、3列の縞模様のようになっている。南米や北米に、このような模様を持つヘビはほとんどいない。また、上あごには14本の短く丈夫な歯があるが、近縁のヘビではこれより多いか少ないかのどちらかだ。
だが、Cenaspisの最も奇妙な特徴は、生殖器「半陰茎」にある。近縁種はほとんど、半陰茎にとげがついていたり、先端にカップのような構造がついていたりする。しかし、このヘビの半陰茎にはとげはなく、全体がカップ構造に覆われており、異世界の蜂の巣のような見かけになっている。
こうした珍しい特徴をもつことから、今回のヘビは新種というだけではなく、新しい属として認められることになった。
「新種の発見というのは、つねに興味深いものです。既知の種に近くない種なら、なおさらです」と、米スミソニアン国立自然史博物館の両生爬虫類コレクションの学芸員であるケビン・デ・ケイロス氏は語る。

しかし、Cenaspisを最初に見つけたのが人間でなく、サンゴヘビだったという点は驚くべきことではない。サンゴヘビは、小さなヘビを狩って食べるのが得意で、サンゴヘビの体内からほかのヘビが見つかった例も少なくない。だが、キャンベル氏が知る限り、サンゴヘビの中から新属新種が見つかったのは初めてのことだ。
今回のヘビの生態については、ほとんど何もわかっていない。だが、別のヘビの腹の中から見つかったということは、世界の生物多様性について、まだ知られていないことがたくさんあるという重要な教訓を与えてくれる。「今回の発見から、新熱帯区にはかなり独特な進化を遂げ、まだ見つかっていないヘビがいる可能性が高いことがわかります」と、デ・ケイロス氏は話す。
キャンベル氏にとっては、独特な特徴を持つCenaspisの生息地も特別であり、かけがえのない場所だ。国立公園や保護区に指定する価値は十分あると考えている。
(文 JAKE BUEHLER、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年12月21日付]
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