ゆうちょ限度額、来春に倍増2600万円 運用難でリスクも - 日本経済新聞
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ゆうちょ限度額、来春に倍増2600万円 運用難でリスクも

政府の郵政民営化委員会は26日、ゆうちょ銀行の貯金の限度額を引き上げる意見書を公表した。現在1300万円の枠を普通預金にあたる通常貯金と定期性貯金に分け、各1300万円と計2600万円に倍増させる。利用者は退職金などのお金を預けやすくなる。ただ超低金利の運用難の中で貯金だけが増えれば、ゆうちょ銀の経営のかじ取りが難しくなるリスクもある。

今後、総務省と金融庁が関係政令を改正し、2019年4月の引き上げを目指す。限度額の緩和は、16年4月に1000万円から1300万円に上がって以来3年ぶり。

民営化委の岩田一政委員長は26日の会見で「重要なのは郵便貯金が使いやすく質の高いサービスになること」と強調した。当初検討した通常貯金の限度額撤廃を見送ったことも踏まえて「一番望ましい姿ではないが、次善の策として適切」との見解も示した。

ゆうちょ銀は国が過半を出資する日本郵政の子会社。限度額引き上げは、日本郵政の長門正貢社長が民営化委に要望していた。貯金が限度額を超えた場合の通知などの手続きが煩雑で事務負担が大きいためだ。参院選が19年夏に迫るなか、自民党の最大の支援組織である全国郵便局長会も規制緩和を強く求めていた。

一方、民間の金融業界は事実上の政府保証が残るままの業容拡大は不公平だと強く反対してきた。このため民営化委は日本郵政のゆうちょ銀株の保有比率を現在の約9割から将来は3分の2未満に下げるとの条件を付記した。

さらにゆうちょ銀の社内で貯金の獲得を評価する報奨の撤廃も求め、民間金融機関から預金が移らないよう歯止めをかける。その裏には、ゆうちょ銀が運用しきれないほど貯金が膨らむのを避ける狙いがある。限度額の引き上げは利用者に朗報だが、経営上のリスクになりかねないからだ。

超低金利の長期化で資金の調達より運用が難しいのは官民を問わず共通する課題だ。メガバンクの預金に対する貸出金の割合(預貸率)は直近の18年9月末で52%。20年前と比べると30ポイント以上落ち込んでいる。

ゆうちょ銀は個人や企業への貸し出しができないため、もともと運用に依存せざるを得ない。日銀のマイナス金利政策などを受けて国債が中心の運用は限界。運用資産のうち国債の割合は民営化当時に9割近くだったのが、今は3割を切る。株式のほか、不動産やヘッジファンドなど運用利回りの高いリスク資産を増やしているが、それでも利ざやはじりじりと下がり続けている。

市場で運用しきれない分は日銀の当座預金に積む。その一部はマイナス金利の対象で、預ければ預けるほど損をしてしまう。日銀向けが中心の預け金は5年前に10兆円に満たなかったが、18年3月末時点で50兆円近くに達する。マイナス金利の適用額は足元では数千億円程度に減っているもようだが、運用難の構図自体は相変わらずだ。

岩田委員長は「(限度額の引き上げは)バランスシートの拡大が目的ではない」と説明した。ゆうちょ銀の幹部も「貯金を集めるつもりはない」と断言する。それでも枠が拡大する分、貯金が膨らむ余地は増す。

金融庁も経営リスクの監視を強める構えだ。今夏からゆうちょ銀を3メガバンクと同様に通年検査の対象に加えた。貯金残高や資産運用の動向をグループ経営の観点からも注視する姿勢を鮮明にした。将来の限度額の見直しに明確な条件をつけることで「打ち止め感」を出すことに腐心した。

メガバンクの1.5倍の規模の預貯金を扱う巨鯨、ゆうちょ銀行。ビジネスモデルの将来像をどう描くかは、日本の金融システム全体も左右する難題だ。

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