日本株、売りの波止めた「1と10」
編集委員 藤田和明
クリスマスに吹き荒れた世界的な株安の嵐。震源の米国市場は25日が休場であり、一足早く明けた26日の東京市場は、いったん株売りの波が止まった。日経平均株価の上げ幅は一時、300円を超えた。日本株がここで踏みとどまった背景にあるのは、「1」と「10」という2つの数字だ。

1とは、株価純資産倍率(PBR)の1倍。25日の急落により日経平均株価の採用銘柄全体のPBRは0.99倍に下がった。市場の株価水準が、1株あたり純資産さえ下回る状態であり、理論上は売られすぎのサインになる。
過去に1倍割れがないわけではない。いまの安倍晋三政権が発足する前の2011~12年に1倍を下回り、金融危機が深刻化した09年には0.81倍があった。そこまで厳しい局面ではないと考えれば、今の株価をそろそろ割安とみる投資家の判断も出てくる。
26日の朝方は、イオンや第一三共、リクルートの上げが目立った。日本株のファンドマネジャーは「海外経済の影響を受けにくい国内の小売株などを丁寧に買いたい」と話し、狙っている銘柄を拾う姿勢だ。
もう1つの数字、10は日経平均の今期予想株価収益率(PER)の10倍だ。1株あたり利益の何倍まで株価がついているかを見る指標で、日経平均採用銘柄で25日時点は10.71倍。アベノミクスでは最も低い水準だ。期待が膨らんでいた過熱相場から修正を迫られているような株価の調整でもない。
もっとも、利益の予想値が変わればPERの見え方は変わる。19年3月期は最高益だった前期を小幅に上回る増益予想が前提だ。もし世界景気の思わぬ息切れや円高が来るなどして利益予想が下振れすれば、10倍の数字は揺らぐ。
いったん立ち止まった日本株とはいえ、一気に切り返していくほどの勢いはみえず、先行きはなお晴れない。いちど崩れた株価が落ち着くには時間を要するかもしれない。
市場関係者にとっては、まさに19年の相場展望を考える時期だが、25日の株安を受けて、予想株価の目線は下がる気配だ。
ブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好氏は、19年の日経平均の安値のメドを1万6000円に引き下げると顧客向けに発信した。米国を中心とした景気後退を予想するのが理由だ。
今回の日本株安は、国内要因よりも、世界景気の先行き懸念、なかでも米国株の動揺が起点になっている。裏返せば、「国内の構造改革が進んでおらず、海外頼みの経済を変えられていない」(クレディ・スイス証券の市川真一チーフ・マーケット・ストラテジスト)という指摘にも重なる。
安倍政権は7年目になる。金融政策や財政出動の支えだけでなく、自国経済の成長力を高める改革を遂行できるか、という問いかけにもつながる局面といえる。(編集委員 藤田和明)

1969年生まれ、一橋大法卒。91年日本経済新聞社に入社。大阪商品部を経て、東京証券部へ。株式市場の動向や資産運用ビジネス、企業財務を担当した。ニューヨークに2度赴任。ほぼ一貫してマーケットを取材してきた。論説委員兼編集委員を経て、現職は金融・市場ユニット長。東京工業大学非常勤講師(~2022年9月)。カバージャンル
経歴
活動実績
2022年6月30日
東京工業大学の日経講座 「教養特論 データとトピックで知る日本経済」で「株価は企業への期待値 株価を学ぶ・世界を学ぶ・自分を学ぶ」を講義
2022年4~9月
東京工業大学非常勤講師
2022年1月26日
「日経SDGs/ESG企業課題解決シンポジウム」のセッション「ステークホルダーに発信する 信頼勝ち取る情報開示」に登壇
2021年4~9月
東京工業大学非常勤講師
2021年2月19日
京都大学のオンライン金融セミナー「金融リテラシーが未来を拓く」でパネル討論
2020年9月2日
日経主催シンポジウム「資産運用会社の未来像を考えるプロジェクト」トークセッションで司会
2020年7月6日
東京工業大学 日経講座「教養特論 データとトピックで知る日本経済」で「株価は企業への期待値」講義
2020年6月9日
専修大学「日経講座 経済ジャーナリズム論」で「株価を学ぶ・世界を学ぶ・自分を学ぶ」をテーマに講義
2020年4~9月
東京工業大学非常勤講師
2020年4月から
BSテレ東「日経モーニングプラスFT」キャスター レギュラー出演
2020年3月17日
BSテレ東「日経プラス10」に出演。「M&A新潮流 敵対的買収は日本に根付くのか?」を解説
2020年2月18日
BSテレ東「日経モーニングプラスFT」出演
2020年2月10日
日経CNBC朝エクスプレス「デイリーフォーカス」出演。「親子上場どう考える? ~高まる市場からの解消圧力」を解説
2019年12月10日
新潟日経懇話会にて「どうみる 2020年の株式マーケット」講演
2019年11月7日
茨城日経懇話会にて「揺れる株式市場どうみる2020年」講演
2019年9月18日
日本公認会計士協会「研究大会2019」パネリスト
2019年5月21日
金沢日経懇話会にて「激動する世界 令和時代のマーケット展望」
2019年1月24日
4監査法人合同フォーラム「今、監査法人に求められる使命」モデレーター
2018年11月22日
日経緊急解説Live!「どうなる2019年の株式相場」
2018年9月13日
日経MMSCRIPTS Asiaセミナー「新たな局面を迎える企業のIR戦略」
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