2019年4月21日(日)

エスカレーター「歩かないで」 鉄道各社、習慣に反旗

2018/12/26 9:31
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エスカレーターは歩かず2列で――。2020年東京五輪・パラリンピックを前に鉄道会社がこんな呼びかけを本格化させている。大会期間中は身障者を含めて公共交通機関の大幅な利用増が見込まれ、転倒などの事故防止が目的だ。国内では長らく歩く人のために片側を空ける習慣が定着しており、乗客からは「急ぐときは歩きたい」と反発の声も上がる。

エスカレーターを歩かないように注意喚起する掲示も(20日、JR東京駅構内)

エスカレーターを歩かないように注意喚起する掲示も(20日、JR東京駅構内)

JR東日本は17日から東京駅で試験的に「歩かない」啓発活動を始めた。職員らが「歩かず左右2列に並んでご利用ください」と呼びかける。手すりや周囲の壁には「お急ぎの場合は階段をご利用ください」といったメッセージ。蛍光色のベストを着た警備員が巡回して注意喚起する。加えて、手すりにつかまって立ち止まる「正しい乗り方」を示す。

千葉県柏市の男性(78)は「普段は右側を空けて利用する。歩く客と体がぶつかり、危ない思いをしたこともある。『歩かず2列』が定着してほしい」と歓迎した。

エスカレーターの歴史に詳しい江戸川大の斗鬼正一教授(文化人類学)によると、国内で初めて片側を空けるように呼びかけたのは高度経済成長期の阪急梅田駅(大阪市)。都内でも1980年代には「片側を空けて急ぐ利用者に道を譲るのは良いマナー」との認識が広まったという。

斗鬼教授は「『速いことは良いこと』という経済効率優先の価値観があった。東京の街は同調圧力が強く、習慣は長く変わらなかった」と話す。

片側空けが世界で初めて行われたのは1940年代の英・ロンドンの地下鉄駅との説がある。その後、欧米各国をはじめアジアに広がった。現在、片側空けは世界的に共通の習慣になっているという。斗鬼教授は「多様性の大切さを掲げる2020年の東京五輪を機に、誰もが安心して使える新たなエスカレーター文化を発信する側になってほしい」という。

東京消防庁によると、2017年にエスカレーター事故で搬送された人は1396人に上り、発生場所は駅など「道路・交通施設」が63%を占めた。日本エレベーター協会(東京)の調査でも13~14年に把握したエスカレーター事故1475件のうち「歩行してつまずき転倒」などの「乗り方不良」が原因の約6割に上る。

同協会の担当者は「エスカレーターの安全基準は立ち止まって利用することを前提にしている」と強調。歩行中に人や荷物と衝突したり、バランスを崩して転倒したりすれば大事故につながりかねない。「ケガや障害で一方の手しか使えない人にとって、片側を人が歩くのは不自由で危険」と訴える。

鉄道各社は多くの外国人や障害者が訪れる東京五輪を控え、歩行禁止の啓発活動に力を入れている。名古屋市交通局は04年からポスターを掲示。毎月10日に駅員が主要駅に立って呼びかける。JRや私鉄など全国の鉄道事業者51社や商業施設などは15年夏から共同で「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンに取り組んできた。

ただし、利用客からは反対意見も。横浜市の男性会社員(42)は「忙しいときは取引先への移動時間も限られる。急いでいるときは止まりたくない」。大学4年の女子学生(22)も「階段がないところもある。歩きたい人のことも考えて」と話した。同協会が17年度に行ったアンケート調査でも「歩行はやめた方がいい」と考える人が70%いる一方、83%が「歩行してしまうことがある」と答えた。

JR東日本の担当者は「賛否両論あるが、啓発を始めてから呼びかけや掲示に反応する人も増えている。今回の試行を踏まえ、今後、東京駅以外にも広げるかを判断したい」と話している。

■歩行禁止の場合の輸送効率は?
 岩手県立大の元田良孝名誉教授(交通工学)によると、エスカレーターの利用者全員が2列に並んで歩くと、輸送効率は全員が立ち止まった場合の1.5倍になる。1時間あたり4千人の輸送能力が6千人に上昇する計算だ。
1列を静止レーン、もう一方を歩行レーンとした場合の効率はどうか。英・ロンドンの地下鉄で誰も歩かない場合と比較したところ、歩行なしの方が輸送量が30%上昇した。高低差が大きく長いエスカレーターでは歩こうとする人が少なく、乗客の密度が低くなり、こうした結果が出やすいという。
 日本エレベーター協会の担当者は「エスカレーターを歩く人にとっては到達時間の短縮になるが、エスカレーターに同時に乗れる人数は減る」と指摘。「特に朝のラッシュ時の駅で電車から降りた人を一気にさばく上では、両側に立つ方が効率が高まる」としている。

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