2019年4月19日(金)

中国発「アヘン」、米に大量に流入(The Economist)

2018/12/19 1:00
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The Economist

中国北東部の河北省●(刑のりっとうがおおざと)台で1年余り前、化学品の輸出会社が入居するアパートに警察の家宅捜索が入った。そこで見つかったのは、違法薬物を外国のウェブサイトで宣伝するために採用された、英語の堪能な女性たちだった。中国の裁判所で今年11月、この会社の経営者を含む9人が、違法薬物を製造して米国へ郵送したという罪状を認めた。

米国へ送られた薬物には、強力な鎮痛作用を持つ医療用合成オピオイドの一種で、既に何万人もが過剰摂取によって中毒死している「フェンタニル」が含まれる。

違法薬物の合成フェンタニルが輸入されていないかを大量の航空便の中から検知するのは難しい(写真は米ニューヨークのJFK空港にて)=ロイター

違法薬物の合成フェンタニルが輸入されていないかを大量の航空便の中から検知するのは難しい(写真は米ニューヨークのJFK空港にて)=ロイター

中国でこの捜査が開始されたきっかけは、同社の顧客だった人物を捜査していた米国の警察からの情報提供だった。米中の当局は、両国が捜査で連携できたことで2000万回分の服用に相当するフェンタニルの海外流出を防ぐことができたとしている。

中国政府は12月1日、米国で深刻な社会問題を引き起こしているフェンタニルの取り締まりを強化することをあらためて示唆した。アルゼンチンで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議後に開かれたこの日のトランプ米大統領との米中首脳会談で、習近平(シー・ジンピン)国家主席は、中国の一部の業者がフェンタニルを無認可のまま販売するのを許している中国の法の抜け穴を防ぐことに合意したのだ。

米国を筆頭に諸外国の政府は長年、こうした中国からの違法薬物の密輸を抑える対策を中国共産党に求めてきた。習氏が対応を約束したことを米ホワイトハウスは「素晴らしい人道的な意思表示だ」と評価した。ただ、それが中国や世界各地に実際にどれだけの効果をもたらすかはまだ不明だ。

■中国は世界の「脱法ドラッグ」工場

中国は19世紀の清の時代に英国と2度戦争して敗れたが、戦争の原因はいずれも、当時、輸出入が禁じられていたインド産ケシから取れる鎮痛作用のあるアヘンを英国が密輸して売りさばいていたことだった。だが今日、世界で最も主流の危険ドラッグ(脱法ドラッグ)は、植物からではなく合成化学物質からつくるケースが増えている。

中国には巨大な製薬・化学産業が存在するため、中国の同業界はこうした流れを受け、違法薬物を生産する格好の場となってきた。中国は現在、医薬品原料の輸出では世界首位にあり、全世界の化学品売上高の3分の1を占める。

米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」によると、中国では規制が緩いことから、合法的に製造された医薬品が闇市場に横流しされているという。違法な形で化学物質を合成するための原料や道具、人材を見つけるのもそれほど難しくない。

覚せい剤といえばかつては「アンフェタミン」や「メタンフェタミン」の製造が長年盛んで、それらは中国の近隣諸国でも生産されてきた。これらの覚せい剤は特に中国や先進国での乱用が増え、需要が拡大していた。ところが、米国で合成オピオイドを医療目的外で乱用するケースが急増し、社会問題となったことが皮肉にも新たな"事業チャンス"を生む形となっている。米政府は、米国で販売されている違法フェンタニルの大半は中国製だとみている。メキシコやカナダの犯罪集団が、錠剤になった合成オピオイドやその原料を中国の業者から買い付け、米国に密輸しているのだ。米国にいる買い手がオンライン通販で直接注文し、国際郵便で品物を送らせる方法もある。

ヘロインの30倍という強力な鎮痛作用を持つフェンタニルは、かなりの効果が得られる量でもかさばらないため検知しづらく、密輸しやすい。様々なパッケージに同封されている乾燥剤の小袋に見せかけて送ることもできる。米司法省の2017年の推計によると、中国で3000~5000ドル(約34万~57万円)で買い付けたフェンタニルを米国の街中で売りさばくと150万ドル(約1億7000万円)にもなるという。フェンタニルなどの合成オピオイドの過剰摂取による米国の死亡者数は14年の5000人から17年には約2万9000人と急拡大している。

■オピオイド過剰摂取による米の年間死亡者は今や3万人弱

中国政府関係者らは、オピオイド中毒は自国内ではそれほどまだ広がっていないと話す(そもそも米国でオピオイド中毒がまん延してしまったのは、鎮痛剤があまりにも簡単に多く処方されてきたことが大きい。中国ではそもそも米国のように合法的にオピオイドの鎮痛剤を入手することが容易ではない)。

最近まで中国では、合成オピオイドの製造や販売に厳しい規制はなかった。中国の業者らは過去何年間も、海外向けに作った自分たちのウェブサイトで公然とフェンタニルを販売してきた。今も依然として、販売している業者は存在する。薬物の"レシピ(化学構造)"を若干変えることで、徐々に厳しくなりつつある規制をかいくぐり続けているのだ。こうした新たなタイプのフェンタニルは中国の法律に抵触しないものの、その危険性はもともとのフェンタニルと変わらない。

中国政府が、法の抜け穴を防ぐという習氏の約束を具体的にどう実行していくのかまだ明らかにはなっていない。既存のフェンタニル系化合物全てと、今後開発され得る類似化合物をまとめて規制対象にすることを検討しているという(現時点では違法薬物の製造業者らが、化学構造を微妙に変えるたびに規制対象に加えていくというやり方だ)。

どの国の立法機関もこれまでは、医薬品の開発を妨げないようにする目的から、広範な対象を定めた規制は避ける傾向にあったが、最近は考え方を改めつつある。米麻薬取締局(DEA)は今年2月以降、あらゆるフェンタニル系の化合物に対する取り締まりを開始した。これは期限を当面、2年間とする緊急措置とされる。

米中はともに、中国が新たな規制を導入した場合、少なくとも一部のメーカーがフェンタニル系化合物の製造を諦め、人の命を脅かすことのない別の製品の生産を手掛けることを期待している。

■米国は自国で解決策を考えるしかない

しかし、取り締まりの強化は難題だ。中国各地の当局は経済成長の促進を最優先に考えている。そのため、政府と業界両方のコスト負担増につながるような検査の強化には消極的になりがちだ。メーカーから見返りを受けている役人もいる。監督不行き届きで世間の怒りを買わない方が良いと中国政府は認識しているが、中国の製薬・化学業界で規制が十分機能しない例は珍しくない。

公衆衛生関連の不祥事が続いており、今夏には品質基準を満たしていないワクチンが乳児20万人余りに接種された可能性が明らかになった。違法な物質を郵送することは既に禁じられている。だが、中国の郵便システムを通って送られる小包は毎分7万5000個を超える。その中から薬物を発見し、送り主を突き止めるのは極めて難しい。

つまり米国は、オピオイド中毒問題にどう取り組むか自国で考えなければならないということだ。依存症状を和らげる治療法など、オピオイド依存症による害を減らす方法をみつけるべく投資を増やすのも選択肢の一つだ。

一方、中国は、強力な合成オピオイドの乱用が自国でも深刻な問題になる可能性を意識する必要がある。薬物乱用者には拘留するなど処罰をもって対応するという今の薬物対策の在り方では、今後、起こるり得るオピオイドの社会問題への対処方法としては米国の施策にも増して不適切だと言わざるを得ない。

(c) 2018 The Economist Newspaper Limited. Dec. 15, 2018. All rights reserved.

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