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股関節の折りたたみ、効率いいフォームの土台に

ランニングインストラクター 斉藤太郎

今回は「股関節の折りたたみとランニングの効率」というテーマでお話しします。効率のいいフォームかそうでないかを見る尺度の一つに「股関節を屈曲できているかどうか」があります。ランニングに限らず、相撲の立ち合いやバレーボールのレシーブを見ても、スポーツのあらゆる場面で股関節を折りたたむことが素早い反応と密接に関わっていると考えます。子どもの運動にしても、能力が高い子は股関節を折りたたんで伸ばす動作(屈曲)にたけています。

「>」のラインができているかが目安

ランニング中の脚の動きとしては、体のやや前で足が地面に着き、着地して体を支えている足の上を体が通過、最後に足の指先で地面から離れていく。このサイクルが左右交互に繰り返されます。

(写真1)股関節が「>」のラインをつくり、前方への速やかな移動につながっている

好例として挙げたフォーム(写真1)で、股関節が折りたたまれているところに注目してください。接地後に体が前方へ速やかに移動しているのがわかります。股関節が描く不等号の「>」のようなライン。この屈曲によって、着地の際に地面から受ける反力をでん部で受け止めることができています。

着地の際に体(重)が上から落ちる力と、下からの反力。骨盤から足先までがサスペンションの役割を果たし、ここで生まれる大きなエネルギーを、体が前方へ進むエネルギーに変換するのです。「落ちては弾む」の繰り返し。股関節が「>」のように折りたたまれての着地、前へのバランスの崩れの連続により、効率よく走ることができるのです。自らの足で地面を蹴って進むのとは全く異なります。

(写真2)股関節が折りたためておらず、前ももでブレーキをかけるように接地。スムーズな前方移動ができていない

次は股関節が折りたためていないところに注目(写真2)。接地時は主に前ももの筋肉を使っていて、強いブレーキがかかっています。股関節に「>」の角度はほとんどつかず、体が接地する足の前方に移動するまでに時間を要します。着地して支える足の真上に体がきたときに最も強く地面に力を伝えたいのですが、支えるどころか腰が落ちて沈んでいます。体幹ではなく脚の筋肉によって支えられてしまっています。

接地時にブレーキがかかる、腰が沈む、ふくらはぎで地面を蹴るようにして体を前へ進める。このような走り方は棒高跳びの棒の動きに似ています。斜め前方に突き刺すように着地し、前ではなく上方向に浮いて落ちる。落ちたときに支えるのは前ももで、上下動の大きな走り方です。

どちらの走り方も、いわばランニングフォームの基本ソフト(OS)に当たるもので、股関節の動きによるOSの効率の違いはとても大きなものといえます。闇雲に効率の悪いOSで作業するより、適切なOSに入れ替えて本格的なトレーニングに入るべきではないでしょうか。

クラブで走る前に必ずする「飛行機」と呼ぶフォーム養成エクササイズを紹介します。片足でバランスを取り、両腕を広げて左右10秒ずつキープします。ここで特に意識したいのが、やはり股関節の折りたたみです。

(写真3)正しい「飛行機」の姿勢。でん部の筋肉と腸腰筋で股関節を折りたたみ、バランスが取れている

股関節を折りたためている人(写真3)は上体を前傾させ、適度な体のバランスの崩れができています。後ろ側はでん部の筋肉、前は腸腰筋で股関節を折りたたみ、バランスが取れています。さらには一直線の体の軸を保って前傾姿勢をつくるために、腹横筋によって体幹が腹帯で圧力をかけるように締め付けられています。腹横筋が使えると肩はリラックスし、おなかの底から自然と深い呼吸ができます。接地する足で体重が強く乗るのは前方の指になります。この形を正しくキープできる人は、接地から離地までの体重移動の流れがスムーズに行えます。

(写真4)頭のみが前に出て骨盤が後傾し猫背の姿勢に。かかとに体重が乗ってしまっている

股関節を折りたためない人(写真4)はシャープな「>」のラインがなく、上体の前傾をつくれていません。腹筋やでん部のスイッチも入っていません。バランスを前方に崩すことを無意識に怖がっているのだと考えます。前傾を取ろうとしても頭のみが前に出て骨盤が後傾し、猫背姿勢になっています。体のバランスは後方で、体重はかかとに乗っています。どこでこの体勢を維持しているかというと、ももやふくらはぎといった筋肉。体幹ではなく脚を中心に走ることになります。脚の振り子の大本にあたるちょうつがいが動きにくく、体幹から1つ2つ先の関節に依存した走り方。やがて枝先への負担が蓄積し、痛みや違和感が襲ってくることになります。

前面は伸縮させ、裏側は緩める

股関節を折りたたむ動作が日常生活で当たり前にできている人はシルエットが美しい印象を与えます。腸腰筋、腹横筋にスイッチが入り、深い呼吸ができています。

開脚して前屈のストレッチをしたとします。股関節を折りたためる人は、ゆったりと息を吐きながらおなかの圧力を抜き、上体を倒すことができます。重力に身を任せるようにリラックスできます。体の前側である股関節を折りたたむということは、体の裏側のでん部やももの裏側の筋肉を緩められるということ。前面の伸縮と裏側の弛緩(しかん)がセットになっているのです。

股関節を折りたためない人は肩を力ませ、手先だけを遠くへ伸ばすようなカチカチのスタイルに陥ります。呼吸を止めてしまう人もいます。前面を伸縮できない、裏側もがちがち。このことが、股関節を折りたためないフォームに反映されてしまうのです。サイドブレーキを引いた状態でアクセルを踏むような無駄遣いです。

寒くなると増えてきますが、かつて座骨神経痛と呼んだ「梨状筋症候群」を患うランナーの多くは股関節を折りたためずに走っていて、背面、でん部の下にある小さな筋肉が凝り固まり、神経を圧迫することで鈍痛を誘発します。1年の締めくくりにご自身の走りを省みて、マラソンシーズン後半戦につなげてみてください。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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