個人情報にも独禁法 IT大手規制へ政府が基本原則
政府は18日、プラットフォーマーと呼ばれるIT(情報技術)大手の規制に関する基本原則を公表した。個人情報などのデータを「金銭と同じ価値」があるとみなして独占禁止法の運用範囲に事実上含め、企業から個人への「優越的地位の乱用」の適用を検討する。M&A(合併・買収)ルールの厳格化なども盛り込んだ。ただ、法解釈などを巡り課題は多い。

政府は米欧と協力してデータ利活用の国際的なルール作りに乗り出す一方、急速に巨大化するプラットフォーマーが消費者や中小企業に対し不利益を強いないよう国内の規制整備を進める。
基本原則は18日に開かれた未来投資会議の関連会合で示された。政府はこれに基づき、大量の個人情報を収集してサービス展開するプラットフォーマーの規制に向けて法整備を検討する。20年中にも規制導入をめざす。
従来は不当な価格の引き下げなどで競合を排除する市場独占が問題視され、各国当局も価格操作などに注目した。一方、プラットフォーマーは収集したデータの力で市場を寡占化し、競争関係をゆがめる。独禁法上の問題もデータの取り扱いに焦点が移り始めている。
政府の有識者会議はデータが「金銭と同様に経済的価値がある」と認めた。プラットフォーマーのサービスを無料で受けても、消費者がデータを提供すれば対価を支払っていると言い換えることが可能とみる。プラットフォーマーがサービス提供の代わりに膨大なデータ提供を個人に強要すれば「優越的地位の乱用」にあたる可能性がある。
ドイツの事例を念頭に置く。独当局は17年12月以降、米フェイスブックが消費者に個人情報の同意を強いたとみて調査を本格化している。交流サイト(SNS)市場で圧倒的なシェアを持ち、消費者が他のサービスに乗り換えることが困難な状況を悪用したとみる。
「いいね」ボタンがついたあらゆるサイトから情報を集め、特定の消費者を狙い撃ちする「ターゲティング広告」などに利用。消費者は情報の使われ方を把握できず、漏洩によるプライバシー侵害などのリスクを負っていた恐れがある。
日本でも、GAFA(米グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などを中心に、個人が無料サービスと引き換えに購買履歴などあらゆるデータを渡すリスクが懸念される。与信審査で本人に不利な結果を招くなど経済的被害を受けかねない。
ただ、東京大学の宍戸常寿教授は「対消費者との関係で独禁法を適用するには、現行法では無理がある」と指摘する。個人情報保護法などを改正し、欧州のように個人情報を自らが管理する権利の強化が必要とみる。
政府はこうした考え方を踏まえ、個人がデータを自由に持ち運べる「データポータビリティー」の仕組みを検討する。利用者が求めればプラットフォーマーがデータの提供・移動に応じる義務を負うものだ。個人が他社のサービスに移りやすくなる。
政府はプラットフォーマーに対し、中小企業との取引などで、契約条件の開示を求めることも検討する。膨大なデータや顧客数を武器に、「出店」する中小企業に対して過度の値下げを要請したり取引を解除したりしているとの疑惑がある。契約条件の開示はプラットフォーマーのコストが膨らむ可能性がある。
公正取引委員会は企業のM&Aを審査する際、データの価値なども判断材料に加える方針だ。
近年、IT大手による有望なスタートアップ企業の買収が「新興勢力の芽を摘み、競争が阻害される」と問題視されている。IT大手にデータや魅力的なサービスが集中すれば、消費者や取引企業により有利な立場を振りかざす可能性がある。
ドイツは17年に競争法を改正し、従来の売上高に加えて「買収価値」を審査基準に加えた。規模が小さくても有力なデータを持つ企業を高値で買収する際は、市場への影響を厳しく審査する。
ただ、競争政策に詳しい山田香織弁護士は「データの規模や占有率などを測り、どんな形のM&Aが競争上の弊害を生むのかという判断を下すのは難しい」と指摘する。