2019年6月19日(水)

EU改革に暗雲 マクロン氏妥協で緩む財政規律

2018/12/17 18:00
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【ブリュッセル=森本学】フランスのマクロン大統領が反政権デモに妥協したことで、欧州連合(EU)改革に暗雲が垂れこめている。仏全土に拡大したデモに屈する形で燃料増税の1年凍結などを決めたため、財政赤字拡大を招きEUが規定する財政ルールに違反する可能性が高まったためだ。マクロン氏はEU改革の中核であるユーロ圏の共通予算創設などを訴えてきたが、自らの政策変更で実現が遠のく恐れがある。

フィリップ仏首相は16日の仏紙(電子版)とのインタビューで、2019年の財政赤字を国内総生産(GDP)比で「3.2%に抑えたい」と言及した。EUのルールでは原則3%以内に抑える必要がある。マクロン氏は財政規律を重視し17年に大統領に就任すると、緊縮予算を組んでEUの基準を達成してきた。

しかし、反政権デモの沈静化のために打ち出した燃料増税凍結などの施策で19年の財政が悪化する見通しとなった。17日にルメール経済・財務相が仏メディアに、EU内で検討してきたIT大手に対する「デジタル課税」をフランスが独自に来年初めから徴収する考えを示したのも、財政負担増の埋め合わせを意識したものだ。

もっともインターネット広告の売り上げなどに課税して見込まれる税収は5億ユーロ(約640億円)程度にとどまり、EUルールの違反回避には及ばない。財政赤字拡大はマクロン改革の行き詰まりを仏内外に強く印象づけている。

マクロン氏の挫折は国内の経済改革にとどまらず、自身が提唱してきたEU改革にも影響が及びかねない。

域内最大の経済力を持つドイツを説得し、EUの統合深化に慎重な国々を改革に巻き込む。マクロン氏は、そのためにも自国の経済改革を通じ経済力でドイツに近づき、イタリアをはじめとする南欧のような低成長から抜け出す必要があると国民に訴えてきた。自国の改革でつまずけば、EU改革の説得力を失う。

将来の財政統合を見据え、豊かな北部欧州から南欧への財政移転につながるユーロ圏共通予算などを実現し、域内分断を修正してEUを立て直すというのが改革の基本だ。マクロン氏は、欧州は通貨が統合される一方で、財政政策が一本化されていないことで域内の経済危機に対応できていないと主張。共通の財務相を創設し、予算も共通化するよう訴えてきた。

一方、自国の税収が域内の低成長国に移転されかねないとして、ドイツやオランダなどからは反発が根強い。6月の独仏首脳会談では共通予算の創設で合意したが、12月14日まで開かれたEU首脳会議では、「予算上の手段」と表現が後退した。オーストリアのクルツ首相は「自分はユーロ圏予算(共通予算)に賛成しない」と明言した。

仏の現状を財政赤字が深刻なイタリアと同一視する見方もあるが、欧州委員会のピエール・モスコビシ委員(経済・財務・税制)は「イタリアとは状況が全く違う」と仏を擁護する。仏財務相経験者の同氏は11日、仏紙のインタビューで伊の財政悪化は長期にわたるが、仏は一時的だとの認識を示した。

ただ、伊のコンテ政権は仏の現況を受けて自国のバラマキ色の強い予算を正当化する材料に使いかねない。大衆迎合主義(ポピュリズム)的な手法で与党入りした極右「同盟」党首のサルビーニ副首相は、「フランス人にとってマクロン氏は悩みの種だ」とマクロン氏批判を展開している。

仏政治が専門の北海道大学の吉田徹教授は「反政権デモが浮き彫りにしたマクロン氏の求心力低下はEU立て直しの先行きにも暗い影を落とす」と指摘する。

19年5月の欧州議会選は仏国内ではマクロン氏の評価を問う国民投票的な意味合いを帯びる可能性も大きい。「反EU」を掲げるポピュリズム勢力の躍進を招けば、EU域内の分断がさらに進み、英国のEU離脱で揺れる欧州統合に遠心力がさらに働く懸念がある。

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