福島に新ワイン 目指せ農業復興のシンボル

2018/12/24 11:37
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新たな福島県産ワインが2019年春デビューする。郡山市周辺を中心に県内産ブドウを100%使い、新興の地元ワイナリーが醸造する。東日本大震災の原発事故による農産物への風評被害が残るなか、農業復興に向けた果物農家と醸造家の二人三脚が、最初の実を結びつつある。

「ワイン用ブドウが生食用に比べ病気に弱いとは知らなかった」。郡山市の農家、橋本寿一さんは18年夏、実ったワイン用のブドウを手に、こうつぶやいた。ブドウ狩り農園を営むが、客足は震災前の水準には戻らず。「何もしなければ廃れるだけだ」。橋本さんは16年からメルローやカベルネ・ソーヴィニヨンといったワイン用ブドウの生産に本格的に取り組んだ。

■「ワイン王国・山梨」に学ぶ

ワインに使うブドウは苗木を植えてから収穫までに3年程度かかる。生食用とは農薬の使い方一つとっても大きな違いがあった。当初は害虫被害を受け、思うような収穫量を得られない。「ワイン王国」山梨県の農家の知恵も借りながら、なんとか今夏の収穫にこぎ着けた。

三菱商事復興支援財団の後押しで、近隣でワイン用ブドウの生産者は、70代の橋本さんを入れて13農家に広がった。今夏収穫した計7トンのブドウから、約5000本のワインを生産するという。「ワイン造りに関心を持つ若者が、この地域で農業を始めてほしい」。橋本さんは力を込めた。

橋本さんらからブドウを託されたのは、ふくしま逢瀬ワイナリーだ。郡山駅から車で約30分。果樹栽培の盛んな地域に新たな特産品を育てようと、同財団の支援を受けて、15年に設立された。醸造責任者は佐々木宏さん。国内の複数のワイナリーで20年あまりのキャリアを積んだベテラン醸造家は「夏場は想定外の暑さだったが、いいブドウに仕上げてもらった。あとは自分がいい味に仕上げる」と意気込む。

地元のブドウが安定調達できるようになるまで、特産品のリンゴを使ったシードルを造ったり、国内の別の産地のブドウでワインを醸造したりして、新天地でのワイン造りのノウハウを蓄えてきた。赤白ともに生産するが、どちらも「味わいがしっかりした本格派をめざす」(佐々木氏)という。

■就農人口は震災前のほぼ半分

初出荷に向けた仕込みはようやく終わったが、ブランド名の選定はこれから。地元だけでなく、都内にある福島県のアンテナショップでも販売してもらう予定で、ふくしま逢瀬ワイナリーは現在、マーケティング戦略の策定に忙しい。昨今の国産ワインブームは追い風だが、全国に小規模ワイナリーが続々登場。手探りを続ける新興ワイナリーが市場で存在感を発揮するのは容易ではない。

東日本大震災による原発事故をきっかけに、福島県の農業就業人口は10年のほぼ半分に落ち込んだまま。郡山市の農家もいまだ風評被害に苦しむ。果物農家と醸造家が始めた新しい挑戦は、福島の農業復興のシンボルになるのか――。周囲の期待が高まるなか、越えなければいけない壁もまた高い。

(映像報道部 近藤康介)

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