半年で中国語の検定最上級を取得するまで
留学経験なしからのマルチリンガル(6)

秋山燿平の留学経験なしからのマルチリンガル
第4話では言語学習に適したマインドセット、そして前回は具体的な言語学習法をお伝えしました。しかし、まだはっきりとイメージが掴めていない人も多いことでしょう。
そこで今回は「私が半年で中国語の検定最上級(HSK6級)を取得した軌跡」を詳細にお伝えすることによって、具体的な例をお示しできればと思います。
※HSKの5級と6級は数年前から「合格/不合格」が明示されなくなりました。ただ、「以前は6割で合格と表示されていた」という表記は今も存在します。そのため、今回は6割以上の得点で「取得」としました。
挑戦を宣言「始める前から環境づくり」
2014年8月、大学院入試を直前に控えた私は「試験に合格したら、もう一つ言語を勉強する」と決めていました。アジアの言語に手をつけたいという思いと、これからの需要を考えて中国語を選択しました。そして私は、9月からの開始に向けて周りの中国人に「これから中国語を勉強する。始めたら手伝ってくれ。」と宣言しました。この結果、いつでも中国語が実際に使える環境が、学習開始前にできました。
全体像を把握「文法簡単、発音難しい」

9月1日、大学院に合格した私はさっそく書店に向かい、簡単な参考書と単語帳を買いました。参考書をざっと読んで、前回お伝えしたリストに従って全体像を把握します。
文字はアルファベットか→漢字
発音は日本人にとって難しいか→かなり難しい
出てくる単語は日本語や英語と共通点があるか→約半分が日本語から推測可能
SVO型かSOV型→どっちもあるが、メインは英語のSVO型
動詞はどのように活用するか→活用しない
過去形はどのように作るか→厳密にはなく、過去を表す単語で表現する
疑問文はどのように作るか→語尾に一語つけ加えるだけか、分からないところを疑問詞に置き換えるだけ
この結果、「中国語の最大の壁は発音で、初めの段階では文法は問題ないだろう」と結論づけました。そこで初めのうちは文法はほとんど勉強せず、発音に力を入れました。まずインプットすべき単語や表現をノートに書き出すときに併せて発音記号を記し、毎日CDを聞いて発音したり、中国人に発音を直してもらったりしていました。
※この段階でインプットすべき単語等は前回の内容を参照ください。
WeChatを使い倒す「研究時間も中国語」

ある程度のインプットが済んだら、実際に中国人と会話を始めます。毎日のように使ったのは中国版LINEともいわれる「WeChat」。「このツールを使うときは中国語しか使わない」というルールを決めて、相手の中国人にもお願いして徹底しました。どうしても分からないことがあったときはツールをLINEに変えて質問したほどです。そして、重要な事はノートに書き出しました。大学での研究の待ち時間も「WeChat」を使い、中国語の勉強時間に活用しました。
「日常で目にする漢字」も勉強のタネ
携帯電話を触れないほどの満員電車に乗っていたある日、何気なく目に入った車内広告を見てふと思いました。「この漢字、そういえば中国語だとどう発音するんだっけ?」。電車を降りてGoogle翻訳で読み方をチェックして、「ああこうだったな」と。ここで覚えた漢字の読み方は今も忘れません。
中国語には「漢字も意味も日本語と同じで、発音だけ違うもの」が沢山あります。だから日常的に目にする漢字を中国語で何と言うかを考えることは実は非常に有効な勉強法なのです。オマケにこのように覚えたものは「文脈の中で覚えたもの(この場合は電車内の広告と結びつけて覚えたもの)」なので忘れにくい。中国語の特性を生かしたこの方法を思いついてから、語彙力が大きく上がりました。
HSKとの出会い「まず5級に3カ月で」
2カ月が経ったある日、簡単な会話はできるようになって「検定を受ける」ことを考え始めました。そのときに、中国人からHSKの存在を教えてもらい、調べるとHSKは実際に使える中国語の運用能力を測る問題ばかり。余計な知識をほとんど必要としません。「中国語を話せるようになるためには、これを目指して勉強することが答えなのでは」と感じ、即決で申し込みました。若干無謀だとは思いつつも4級と5級のダブル受験(6段階の難易度で、1級が簡単で6級が難しい)を選択。
本番までの1カ月、中国人との会話を続けながら、主に過去問に取り組みました。当然、「WeChat」(この辺りから「HelloTalk」というアプリも使っていました)でのやりとりも続けながら。

5級取得「次は最上級?」
初めて受けたHSKの結果は、5級の得点率が約67%。ギリギリでしたが6割を超えて、なんとか目標達成。調子に乗って周りに「2カ月後の次の試験では6級を受けてやろう」と言ってしまいました。半年で検定最上級......。一瞬戸惑いましたが、言ったからには挑戦しようと、思い切って申し込みました。
「現実的に可能か」「勉強する価値があるか」の2軸で問題を取捨選択
6級の過去問集を購入して、改めて全体像を把握しました。6割の得点を取ることを目標に、次の2軸に照らし合わせて問題を取捨選択しました。
2カ月の対策で得点可能か
「中国語を話せるようになる」観点で価値があるか
例えば「4つの文章の中から文法的に間違いがあるものを選ぶ」という問題は捨て、「インタビューを聴く問題」は真剣に取り組むといった形で、現実的に考えて対策可能な問題、かつ最終目的である「中国語を話せるようになる」ことに繋がる問題を選びました。
また作文問題は配点が非常に大きく、捨てると6割には到達しないので、毎回中国人に添削を依頼して力を入れて取り組みました。このように、ターゲットを絞って2カ月の対策を行いました。
6級取得、いつの間にかレベルも向上
結果は得点率75%と、無事に目標達成。かなりの達成感と高い壁を乗り越えた喜びが押し寄せました。さらに、6級に向けて真剣に努力したことで、中国語のレベルもかなり上がりました。初級レベルの簡単な会話しかできなかったのが、難しい表現を使い、ある程度込み入った話までできるようになったのです。おそらく普通に会話を重ねただけでは、半年でここまで到達できていなかったと思います。「検定に挑戦して良かったな」と、本当に思いました。
成功の3つの要因

半年という短期間で中国語を話せるようになったのは、以下の3つの要因が揃ったからだと思います。
常に中国人と話せる環境があった
要所で全体像を把握し、効率的な学習法を選択できた
検定を用いて「ギリギリ到達可能な短期目標」が設定できた
まず中国語を使う機会や生の発音を聞く機会が多かったこと。初めに最大の壁は発音だと把握し、文法にはあまり時間を割かずに発音に労力を費やす選択をしたこと。最後にかなりハードルの高い検定に挑戦することで、良い意味で負荷がかかって前進する原動力が生まれたこと。すべてが上手く作用した結果です。
皆さんもこれまでの内容を参考に、英語を初めとする外国語習得に挑戦してみてはいかがでしょうか? 習得後には新しい世界が待っているはずです。
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