2019年6月19日(水)

バイオは酒飲みの友
(WAVE)DCIパートナーズ社長・成田宏紀氏

コラム(ビジネス)
2018/12/18 6:30
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忘年会もいよいよ本番を迎えつつあり、連日夜のお付き合いがある方もいらっしゃるのではないだろうか。忘年会を楽しめるのも実はバイオテクノロジーのおかげである。バイオというと遺伝子やDNAという単語を思い浮かべられるだろうが、これらは新参者であり、バイオの歴史の大半は微生物を利用した醸造技術である。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

新しいものに感じられるバイオテクノロジーはそういう意味では、文明の誕生とほぼ同時期から存在していたと言え、最古の科学技術の一つである。

現代のように食品を保存できなかった古代ではなすすべもなく、勝手に発酵が進んだ(腐った)結果、いくつかの食品は人類にとって有用になった。勇気ある人が食し、取捨選択し、能動的に生産していったからだ。

ワインなどは単純で、ブドウには糖をアルコールに変える微生物である「酵母」がもともと付着している。ブドウの果汁が勝手に発酵し、アルコールとなったのが始まりだろう。味はともかく、読者諸氏でもワインを造ること自体は簡単だ。もっとも酒税法の問題はあるが。

日本酒の醸造には酵母だけでなくカビの一種である「麹(こうじ)菌」が使われている。麹菌はでんぷんを糖に変える働きを持ち、酵母にバトンタッチするとアルコールになる。

ワインと異なり、日本酒造りは大変だ。酵母は空気中に漂っているくらいなので簡単に採取できるが、麹菌の採取は命懸けだ。野生型の麹菌にはアフラトキシンという猛毒を産生する種類もいるからだ。日本人は長期にわたって麹菌を選別した結果、完全に無毒な麹菌の育種、すなわち家畜化に成功している。

2005年には麹菌の全ゲノム情報が解読され、ヒトと同じように「トランスポゾン遺伝子」を有することが判明した。トランスポゾンとは動く遺伝子である。我々のDNAは固定式ではなく可動式であり、図書館の本があちこちの好きな本棚に収蔵できるように、DNAの中で納まる場所を変えることができるのである。ヒトゲノムの44%もがトランスポゾンであり、突然変異のきっかけとなって進化を促進してきたと解釈されている。

最先端の醸造技術では、トランスポゾンを用いて麹菌の品種改良(進化)を進めようという試みがあり、おいしいお酒を生み出そうとしている。進化を加速させているだけなので、遺伝子組み換え食品の規制を受けずに早く世に出てほしいと個人的には期待している。

さて、このトランスポゾン。「酒造りにしか利用していない」なんてことはもちろんない。遺伝子編集の有効な技術の一つとして注目を集めている。最近、中国の研究者が遺伝子を編集した赤ん坊を初めて誕生させて問題となっているが、最先端の医療である遺伝子治療、遺伝子操作によりがん治療を可能としている「CAR-T療法」、iPS細胞などの先端医療に有用な技術である。

遺伝子治療で下戸の方も飲めるようになり、飲み過ぎで肝がんになってもCAR-Tで治療し、iPSで肝臓再生を図るなんて時代が来るかもしれない。バイオテクノロジーはいつの時代も酒飲みの友だ。

[日経産業新聞 2018年12月13日付]

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