超貴重、宝石になった恐竜の化石 しかも新種

オーストラリア内陸の町、ライトニング・リッジに近いウィー・ワラの鉱山で、オパールでできている恐竜の化石が見つかった。新種として新たに命名された恐竜、ウィーワラサウルス・ポベニ(Weewarrasaurus pobeni)の化石だ。2018年12月4日付けで学術誌「PeerJ」に論文が発表された。
鳥脚類という恐竜のグループに属するウィーワラサウルスは、大型の犬ほどのサイズで、後ろ脚で歩き、くちばしと歯を両方備えて、植物を食べていた。身を守るため、群れで移動していた可能性がある。北半球にはトリケラトプスやハドロサウルスといった植物食の恐竜がいたが、南半球にはそれらと大きく異なる恐竜たちが生息していたらしい。今回の化石も、そうした証拠の一つに加わった。
オパールは貴重な宝石の原石で、オーストラリアのこの地域で産出することが知られている。
「古生物学者としては、骨の解剖学的な構造にとても興味があります。特にこの場合は、歯です」。論文の筆頭著者でオーストラリア、ニューイングランド大学のフィル・ベル氏はこう話す。「しかし、ライトニング・リッジで調査をしていると、虹色のオパールの中に保存された化石があるという事実を無視できません」
地球上に二つとない場所
シドニーの700キロ余り北西にある乾燥地帯に、数百の小さな鉱山がある。しかし、恐竜の化石はごくまれにしか見つからないため、歯のついた顎の化石が発見されたのは奇跡的だとベル氏は言う。「ここは本当に特別な場所です。美しいオパールの中に恐竜が保存されている場所は、世界中探しても他にありません」
オパールは、ケイ酸を豊富に含む地下水が濃縮し、長い年月をかけて生成される。今回の化石は2013年、アデレードに拠点を置くオパールのディーラー、マイク・ポーベン氏が発見した。新種の学名は彼の名にちなんでいる。ポーベン氏はいつものように、加工前のオパールを採鉱業者から1袋買い、化石を探していた。すると、見慣れないかけらが1つ目に留まった。
「頭の奥で『歯だ』という声がしました」と彼は振り返る。「信じられない、と思いました。ここに歯があるなら、これは顎の骨じゃないかと」
ポーベン氏は、歯をとどめたオパールを手元に残し、残りを仲介業者に送った。9日後、売れ残ったオパールが返却され、ポーベン氏はそれらも調べてみた。
「すると化石がもう1つ見つかりました。最初のものよりも小さく、歯の根がはまる穴がある骨です。ひっくり返すと、頭の中が爆発しそうになりました」とポーベン氏。「2つの化石片を並べると、同じ顎骨の一部だとわかったのです」

論文著者のベル氏が、独特の歯を持つこの化石を初めて目にしたのは2014年のこと。最初は、開いた口がふさがらなかったと明かす。ポーベン氏はその後、この化石をオーストラリアオパールセンターに寄付。同センターはライトニング・リッジにある博物館で、オパール化した化石の世界最大のコレクションを有している。
南の超大陸にいた恐竜たち
南方の超大陸ゴンドワナの東部から発掘される恐竜は急速に増えており、ウィーワラサウルスもそのリストに加わる。命名されたオーストラリアの恐竜は20にも満たないが、2015年以降では竜脚類のサバンナサウルス、よろい竜のクンバラサウルス、そして小型の鳥脚類ディルビカーソル(Diluvicursor)に続く4種めの記載となる。
ライトニング・リッジは今でこそ乾燥した、低木が点在する土地だが、ウィーワラサウルスが生きていた頃はまるで正反対の環境だった。白亜紀中期、ここは太古に存在したエロマンガ海の縁にあり、湖と水路が多い緑豊かな一帯だった。
当時、この地域は南緯60度にあり、今よりずっと南極圏に近かった。ライトニング・リッジと南極点との距離は、現在のフィンランドの首都ヘルシンキと北極点との距離と同じくらいだっただろう。気候は温暖だったが、暗く長い冬には、太陽が地平線上に昇るのはほんの短時間だけという日が何日もあった。
「ライトニング・リッジで出る化石は、ゴンドワナ大陸東部の動物相に光を当てるのに役立っています」と話すのは、米国、北アリゾナ博物館の古生物学者ラルフ・モルナー氏だ。化石の年代である1億年前~9600万年前、この大陸は世界の陸地部分の5分の1を占めていたと推測されている。
通常、人々が白亜紀の恐竜について考えるとき、たいてい思い浮かべるのは北米の恐竜だ。しかし、「『ティラノサウルスやトリケラトプス、ハドロサウルスたちの動物相』は、北米とアジアに特有だったのではと思います」とモルナー氏。氏はかつてオーストラリアのクイーンズランド博物館を拠点にしており、同国で最も有名な恐竜のムッタブラサウルスが1981年に発見されたときも関わっていた。
対照的に、南半球の恐竜の動物相は構成が大きく異なっていた。そして今では、南米(当時のゴンドワナ西部)とオーストラリア間の違いもはっきりしつつあるとモルナー氏は言う。
「南米との明らかな違いの1つは、オーストラリアは小型鳥脚類が豊富かつ多様だという点です」
多様な種に進化した鳥脚類
ライトニング・リッジには小型の鳥脚類が最大で3種いたことが化石の断片から明らかになったと、ベル氏らのチームは論文で報告している。また、別の4種がビクトリア州から見つかっている。
北米では、トリケラトプスやハドロサウルスといった植物食恐竜が暮らす中で、テスケロサウルスのような小型の鳥脚類は生態系での大きな地位を獲得することはなかったようだ。しかし、トリケラトプスやハドロサウルスの仲間は、オーストラリアにはいなかった。
「ですから、ここでは小型鳥脚類は好きなだけ自由に植物を食べることができ、多様な種に進化していったのです」とベル氏は考えている。
アルゼンチンにあるリオ・ネグロ国立大学で植物食恐竜を専門に研究するペネロペ・クルサド=カバレロ氏は、「白亜紀の南米、南極大陸、オーストラリアにいた2足歩行の小型植物食恐竜たちのつながり、移動、関係などを解明するのに、今回の発見が役立ちそうです」と評価する。
かつてゴンドワナを構成していた今日の大陸は、当時すでに分裂し始めていた。一方、クルサド=カバレロ氏のチームは近縁な鳥脚類の化石を南極大陸とアルゼンチンで発見していることから、「白亜紀の間、少なくとも断続的に、これらの大陸を結ぶ陸の橋があったはずだということになります」と話す。「南米の動物相が南極大陸を通ってオーストラリアに移り住み、そこでオーストラリアの鳥脚類が生まれたのでしょうか? それとも、その逆なのでしょうか?」
こうした知識の空白を埋めるのに、新しい化石が役立つかもしれない。今もベル氏らのチームは、オパール化したいくつもの標本に取り組んでいる。数年後には新種として記載されそうだ。
(文 JOHN PICKRELL、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年12月7日付]
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