チームラボ、猪子氏にインタビュー 「大学時代は人生唯一の暗黒時代」
廣津留すみれのハーバードからの手紙(5)

10月上旬、今話題沸騰中のウルトラテクノロジスト集団、チームラボがハーバード大学にやってきました。学内に新しくオープンしたギャラリーでのデジタルアートの展覧会と、学生向けのワークショップが開催されました。そこで、私はハーバード側の学生アシスタントとして一般公開までの2週間、お手伝いをさせていただきました。今回はチームラボ代表の猪子寿之氏に伺った、大学時代から仕事を始めた頃までのお話を中心にお伝えします。
「東大に過度の期待をしていた」
廣津留 チームラボが国内外で高く評価されて成功されてますが、猪子さんはどんな大学時代を送られてたんですか?
猪子氏(以下猪子) 大学入るまでは、徳島の田舎の公立高校に行っていて、東大に行きたいなと思ってたんだよね。情報がないとはいえ、本屋さんとかで情報集めて受験というわかりやすいゴールに向けて頑張っていた。新しい時代に向けてぼんやりと何かやりたいことがあったから、それを実現しようという思いで行ったんだけど、実際に東大に入ってみるとイメージと全然違った。新しいことを始めたいっていう仲間もいなければ、自分のやりたい事業を始めるためのスキルや方法を教えてくれる授業もなかった。まあ、東大に過度の期待をしていたんだよね。なので、暗黒時代に入っちゃったんだ。

廣津留 暗黒時代ですか(笑)。でも、ずっと暗黒時代っていうわけでもなかったんじゃないですか?
猪子 いや、やっぱり大学時代は暗黒時代だった。というのも、受験とは違って具体的に何を頑張ればいいかという明確なゴールがなくなって、何をすればいいかわかんなくなっちゃった。かといって、どこかに所属したりするのも嫌だった。自分の大学時代、つまり1996年から2001年は情報革命で新しい社会が来るってなんとなく分かっていた時だった。時代は必ず変わると思っていたから、例えば20世紀にできた団体に所属して、前の時代のルールや価値観を植え付けられるのが嫌だったんだよね。時間がかかってでも、自分ですべてをゼロから考えた方が良いと思った。
廣津留 で、どうしたんですか?
猪子 逃避した(笑)。マンガ読んだり。
実は自分がやりたいことでお金が稼げる自信はなかった
廣津留 今の若い人たちの中でも、大学に入った瞬間に目標を見失っちゃう人っていると思うんですけど、その暗黒時代をどうやって抜け出したんですか?
猪子 抜け出せず逃避しているうちに、大学4年生になるわけだ。社会に出ざるを得ない状況だけど、社会に出る勇気がなかった。だからこそ自分でつくろう(起業しよう)と思ったんだよね。でも、本当に小者だなと思ったのは、そこで奨学金目当てに大学院に行ったこと。月十数万円の奨学金をもらいながら大学院に2年通い、卒業する時、つまり会社設立して2年経った頃に月20万弱くらい稼げればいいや、と思ってた。実は自分がやりたいことでお金が稼げる自信はなかったんだけどね。
廣津留 実際どうなったんですか?
猪子 結局、会社つくってラーメン屋の2階に月8万円でオフィスを借りて、とにかくその家賃を払うために、すぐお金になるようなソリューション系の仕事をやった。本当はやりたい仕事じゃなかったけど、楽しかったし、成長できたし、今にもつながってるし、結果的にはよかった。
廣津留 なるほど。
猪子 つまり何が言いたいかというと、暗黒時代ってことだね(笑)。人生唯一の。

やりたいことをやるには
廣津留 でも、今はやりたいことがやれてるんですよね。やりたいことをやれない大学生は多くいると思うんですが。
猪子 今思えば、さっさと大学をやめて起業すればよかった。
廣津留 その方が上手くいったと思いますか?
猪子 そう思う。なぜかというと、自分はチームラボという場にいることによって成長したから。常識がないまま、ゼロからデジタル領域でものをつくる、ということだけをある種宗教的に決めて組織を作った。「デジタルじゃないとダメ、チームでやらないとダメ」という強い宗教があったから、より儲かる合理的な解答があったとしても、宗教的に否定したんだよね。そうやって特殊な場をつくっていった。
廣津留 その場で学んだことの方が、大学で学んだことよりも多かったですか?
猪子 大学は個人の能力を上げて個人がアウトプットするだけだけど、チームラボはチームで仕事をするから、急激に効率が上がる。自分的にはその働き方の方がよかったんだよね。
廣津留 お話した印象だと、猪子さんの世界では、誰に何を言われても動じないし失敗も怖くないというイメージがありますが、どうですか?
猪子 周りの人の声は結構関係ないね。人間としての理想像が強くあるので、他人の価値観は関係ない。東大を出て、同級生は一流企業に就職しているのに、自分は雑居ビルの8万円のオフィスで働いてる。普通はかっこ悪いと思うかもしれないけど、俺は思わなかった。
テクノロジーと未来について

廣津留未来についてお伺いしたいと思います。ロボットができるから、人間ができる産業が減っていく、という話をよく耳にしますが。
猪子 それって、たとえばどんな産業?
廣津留 うーん......。
猪子 ロボットができたからといって消える産業はない。担い手が代わるだけ。例えば、タクシーはアプリで呼べるようになって、書籍はデジタルで読めるようになった。でも、産業自体は残ってる。
廣津留 では、これからはどんな担い手が残ると思いますか?
猪子 クリエイティブは残るよね。人間にできてロボットにできないことは、クリエイティブな仕事。ただし、高度なレベルに達したものでないとうまくいかない。例えば、「エル・ブジ」(スペインにあった3つ星高級レストラン)では食材の珍しさよりも作り方の珍しさを追求してヒットした。
廣津留 私、ハーバードでエル・ブジのシェフのフェラン・アドリア氏の「科学と料理」という授業を取っていたんですが、液体窒素を使ったアイスや分子調理法などユニークな発想に驚きました。
猪子 そう。でも当初はそれがお客さんに受けるかなんて論理的にはわかんなかったんだよね。伝統的なスペイン料理よりも科学実験的なレストランの方がいいなんて誰も考えつかなかったことだし。結果的に、レベルが高かったからこそうまくいった。
20代にやっておくべきこと3つ
廣津留 最後に読者に向けて、20代でやっておくべきことを3つ教えてください。
猪子 「20代でやっておくべきこと3つ」なんていうタイトルをつけないことですね。
廣津留 (笑)
猪子 というのも、そういう表面的なテクニックは仕事をしているうちにいくらでも身につくんだよね。若いうちからマーケットのトレンドにとらわれるのではなく、本質を究めていった方が自分のためになりますよ。
廣津留 大変勉強になりました。ありがとうございました。

【チームラボ展示情報】
teamLab at Radcliffe: What a Loving and Beautiful World
会期:2015年10月16日(金)-11月14日(土)
会場:Johnson-Kulukundis Family Gallery of Byerly Hall(8 Garden Street Cambridge,
MA 02138)
開館時間:12:00-17:00
休館日:日曜日
URL: http://www.radcliffe.harvard.edu/event/2015-teamlab-exhibition
1993年生まれ、大分県立大分上野丘高校卒、米ハーバード大4年生。英語塾を経営する母親の影響もあり、4歳で英検3級に合格。3歳から始めたバイオリンで高1の時に国際コンクール優勝。大学では2団体の部長やオペラのプロデューサーなどを務める。2013年からハーバード大の学生らとともに子どもの英語力を強化し表現力やコミュニケーション力を引き出す英語セミナー「Summer in JAPAN」を大分で開催している。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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