東京都心、オフィス空室率2%割れ バブル期並み水準 - 日本経済新聞
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東京都心、オフィス空室率2%割れ バブル期並み水準

オフィスビルの不足感が強まっている。11月の東京都心の空室率は1.98%と、バブル経済期の1991年以来27年ぶりに2%を下回った。業容拡大で人手を増やした企業が目立つ。需要の担い手はかつて中心だった金融機関から、IT(情報技術)大手やゲーム産業など多様化。共有空間を増やし社員同士のビジネス交流を促すなど、新しい働き方への対応も空室率低下につながった。

仲介大手の三鬼商事が13日に発表した11月時点の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は前月比0.22ポイント下がった。低下は4カ月連続で、前年同月と比べると3割低下した。同社は2001年までは年末時点の空室率のみ発表していた。91年末は1.79%だった。

入居企業が多様化

空室率は景気拡大を背景に12年以降低下が続いていた。18年は「東京ミッドタウン日比谷」(東京・千代田)をはじめ新たに完成する大型オフィスビルの貸し床面積が約60万平方メートル。17年の3倍に達する。需要を上回り、空室が増える可能性もあった。事業拡大でオフィスを借り増す企業は多く、空室率は需給均衡の目安とされる5%を大幅に下回る。「紹介できる物件が非常に少ない」(仲介大手の三幸エステート)という。

バブル期以来のオフィス不足になった理由は3つある。1つは入居企業の多様化だ。かつて都心の大型オフィスの主な利用者は金融機関をはじめとする大企業。景気拡大で次々と拠点を増やしていた。現在はIT企業や地方企業など裾野が広がり、増えたスペースを吸収している。

9月に開業した大型ビル「渋谷ストリーム」(東京・渋谷)は米グーグルの日本法人がオフィス部分(14~35階)を全て借りた。入居は19年だが、既に満室状態だ。家計簿アプリを手がけるスタートアップ、マネーフォワードも5月に完成した大型ビル「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」(東京・港)に移転した。生活用品を手掛けるアイリスオーヤマ(仙台市)は11月、8月に完成した「日本生命浜松町クレアタワー」(東京・港)にグループの東京本部を設けた。LED照明や家電製品の研究開発拠点も含み、関東圏の技術者確保にもつなげる。

新たな働き方も需要増もたらす

オフィスの用途が広がったことも大きい。バブル期はデスクワークや会議が中心。近年は共有スペースを増やして社員の交流を活発にし、新たなビジネスの創出につなげる動きが目立つ。3月開業の「住友不動産大崎ガーデンタワー」(東京・品川)にはセガサミーホールディングスが8月以降、段階的に拠点を集約。社員食堂やバー、ライブラリーなどを新設した。こうした空間で社員の交流を促し、新しい事業アイデアの構築を進める狙いがある。「移転前に比べて床面積は1割増えた」(同社)といい、オフィスの手狭感も解消する。同ビルは18年完成の大型ビルのなかで最大規模だが「現在は満床」(住友不動産)という。

3つ目は、席を自由に選び様々な企業と商談などができるコワーキングスペース(共用オフィス)の普及だ。このサービスの提供企業も有力な借り手として台頭する。2月に上陸した米大手のウィワークがギンザシックス(東京・中央)を借りるなど、都心部で積極的に床を確保している。不動産サービス大手JLL(東京・千代田)の調査では、都心5区のコワーキング向け貸し床面積は12月末に7万4200平方メートルと前年比2.7倍に広がる見込みだ。今年新規に増えた大型オフィスの床面積の1割強に当たる。

既存ビルの空室も減っている。三鬼商事によると11月、住友商事の移転で空いた「晴海トリトンスクエア」(東京・中央)を含め約5万2800平方メートルの既存ビルの空室で入居企業が決まった。通常、新築ビルができると企業の移転で既存ビルが空く「二次空室」が発生する。現状は「同じビルの他の企業が増床を決める事例もみられ、空き部屋が出てこない」(三幸エステートの今関豊和氏)。

賃料はバブル期を下回る

空室の不足に比べ、賃料の差は大きい。11月の平均募集賃料は3.3平方メートル当たり2万743円と前月に比べ0.7%高い。59カ月連続で上がったものの91年当時(4万4193円)の半分にとどまる。2万2000円台だったリーマン・ショック前の08年前半の水準も下回る。バブル期は国内の大手金融機関のほか、進出した外資系金融機関も一等地に拠点を構えた。3.3平方メートルあたり「10万円を超える物件もあった」(仲介大手)という。

現在はIT大手や一般製造業、商社など担い手は多岐にわたる。新興国企業との競合などでコスト節減意識は強く、かつてのような高い賃料の支払い能力は乏しい。バブル崩壊やリーマン・ショック後の不況で賃料は急落。平均賃料は14年まで1万6千円台だった。一度安値を経験した借り手は賃料の引き上げに抵抗感もある。

19年は大型オフィスの供給面積が約40万平方メートルと、18年比で減る見通し。サイバーエージェントなどが相次いで大型のビルに移転する予定。「19年完成の大型ビルは面積ベースで8割のテナントが決まっている」(JLLの大東雄人氏)との声もある。当面は現在の需給が続くとの見方が目立つ。むしろ業界で関心を集めるのは20年の動向だ。都心の大型ビルの新規供給は約70万平方メートルと、18年を上回る規模が見込まれる。景気の減速などでオフィス需要が鈍れば、空室が増加に転じる可能性がある。

(藤田心)

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