躍進続く3歳馬、その裏に生まれ月の人為的早期化
3歳馬が古馬混合のG1で好成績を残している。11月18日のマイルチャンピオンシップ(京都)をステルヴィオ(牡、美浦・木村哲也厩舎)が制すると、ジャパンカップ(11月25日、東京)をアーモンドアイ(牝、美浦・国枝栄厩舎)、チャンピオンズカップ(12月2日、中京)をルヴァンスレーヴ(牡、美浦・萩原清厩舎)が勝ち、3歳馬がG1で3連勝を飾った。12月1週までに3歳馬が秋の古馬混合G1を3勝したのは、1984年のグレード制導入以降では初めてのことだ。今年に限らず、近年は古馬混合戦で3歳馬の成績が向上している。背景には何があるのか。

ステルヴィオ、アーモンドアイ、ルヴァンスレーヴの3頭ともに、先行集団の馬群の内側から抜け出してくる完璧なレースぶりで勝った。3頭とも、以前はスタートで出遅れて後方からの競馬になることが多かったが、今回はいずれもスタートを決め、絶好位からレースを進めた。成長ぶりがひと目でわかる3歳馬らしいレース内容でのG1の3連勝だった。
■「毎年強い3歳馬」連対率にもくっきり
条件戦も含めた古馬混合戦の3歳馬の連対率(出走馬のうち2着以内に入った馬の割合、障害戦除く)を調べると、上昇傾向にあることがわかる。20年前の98年から2006年までの最高は98年の15.5%で、他の年は13.3~14.8%にとどまった。それが07年に17.1%を記録すると、それ以降は13年を除き、毎年16%以上の数字を維持している。18年も12月9日終了時点で17.8%と高い。比較的成長の遅い馬が多かった17年の3歳世代も10月以降に成績を上げ、16.6%を記録している。
98~06年までは4歳馬の連対率を上回ったことが無かったが、その後は07、09、10、14年で4歳馬を上回った。最近も17年は4歳馬が16.7%、18年は17.8%で、3歳馬は4歳馬とほぼ互角に渡り合っている。近年の3歳馬が強くなっているのは数字からみても確か。これまで3歳馬が好結果を残すと、「今年の3歳世代は強い」と話題になってきた。が、その強い世代が翌年の3歳馬に押されている傾向が続いているのをみると、もう3歳馬は毎年強いものだと認識したほうがいいといえる。
なぜこうした流れができたのか。この夏、3歳馬で重賞に挑む前、レースに向けた最終追い切り後に古馬との力関係を問われた騎手の福永祐一が興味深い言葉を発した。「最近の馬は以前と比べると、生まれる時期が早くなっているし、あまり3歳というのは関係ないのでは」
馬は基本的に春に子を産む動物である。だが、このところ、以前はあまりみられなかった1、2月生まれの競走馬が増えている。中央競馬の競走馬登録でみると、03年生まれまでは2ケタしかいなかった1月生まれが、18年の3歳世代(15年生まれ)では220頭を超える。2月生まれも同様に4割ほど増え、約800頭を数える。

1、2月生まれの馬の成績も向上している。日本ダービーの過去30年の勝ち馬の生まれ月をみると、88~13年までは2月生まれが2頭いただけで、1月生まれはゼロ。だが、14年以降の5年間では2月生まれが3頭、1月生まれが1頭と傾向が一気に変わっている。16年のダービーでは勝ったマカヒキ、2着のサトノダイヤモンドがともに1月生まれだった。好調な今年の3歳世代でも、秋に古馬混合G1で勝利を挙げた3頭のうち、ステルヴィオとルヴァンスレーヴが1月生まれだ。
■早く生ませて大きく育てる
もちろん、育成技術の向上も仕上がりの早い馬を増やしている要因ではあるのだろうが、こうした生まれ月の早期化も3歳馬が強くなった理由として見逃せないものであろう。
ではなぜ、冬に生まれる馬が増えているのか。生産者や馬主の事情から、人為的に生まれる月を早めているのだ。理由としてはまず、競走馬の競り市で、早く生まれた子馬の方が売れやすいことが考えられる。生まれた月が数カ月早ければ、それだけ成長も早く、大きくなる。見栄えのする馬の方が馬主の目を引きやすく、安心して買える。成長が早く、若いうちからレースで活躍してくれれば、投資資金の回収が早まる利点もある。12年からは2歳新馬戦の開始時期が2週早まり、日本ダービーの翌週になった。こうした日本中央競馬会(JRA)の施策も、早い時期から力を出せる馬へのニーズを高めている。19年からはこれまでより3歳未勝利戦の終了時期が1カ月早まる。早熟な馬が求められる流れは今後も強まりそうだ。
優秀な種牡馬をより多くの繁殖牝馬に配合する狙いから、種付けの時期を以前より前倒ししているという背景もある。90年代までは人気種牡馬でも交配頭数は100頭台だったが、近ごろは飼養や体調管理の技術の向上から、交配頭数も増え、18年のロードカナロアは294頭、ドゥラメンテも290頭に上った。春の種付けシーズンだけではこれだけの数はこなせない。種付けの予約が混雑する春になる前に、優秀な種牡馬を確保しようとする生産者もいることから、以前より種付けシーズンも前倒しされているようだ。

とはいえ、繁殖牝馬が発情を迎えないと、種付けは不可能である。どのようにして種付けシーズンの前倒しを可能にしているのか。人の手によって繁殖牝馬の発情の時期を早める技術が使われている。代表的なものは「ライトコントロール」と呼ばれる手法だ。
■電気を照らして発情期を操作
馬は日が長くなる時期になると繁殖活動に移る動物で、目に入ってくる光の刺激を受け、日の出ている時間が長くなってきたと感じると発情が始まる。従って自然に任せれば、春以降が馬の繁殖期となるわけである。
この性質を利用し、冬場に馬房内に電気を付け、光にあたる時間を長くすることで発情時期を調整するのがライトコントロールである。馬の妊娠期間は約330日。1月生まれの馬をつくりたい場合、前年の2月が種付けに最適な時期となるようにライトを点灯させる時間を計算する。ライトコントロールは育成時の若駒にも活用されており、ホルモンの分泌が活発になることで成長を早める効果があるという。
また、薬剤を使って発情時期を早めるケースも出てきている。ライトコントロールでもうまくいかなかった場合には、こうした手法もとられているようだ。
ただ、早く生まれる馬、特に1月生まれの馬をつくろうとすると、予定より早く、前の年のうちに生まれてしまうリスクも大きくなる。北半球では1月1日を過ぎると、1つ年齢を加算するルールとなっており、12月に生まれてしまうと、1カ月もたたないうちに1歳になってしまうことになる。
欧州ではかつて、98年1月2日生まれと虚偽に登録されていたエンドレスサマーという馬が、後に97年12月26日生まれだったことが判明。00年に2歳馬としてG2に出て勝利を挙げ、G1でも2着に入ったが、2歳馬として出たレースはすべて失格となった。生まれ月の早期化はこうした事態を招きかねない、危うい側面もはらんでいる。
(関根慶太郎)