「分配重視」継続も改革速度調節へ 韓国経済副首相に洪氏
【ソウル=鈴木壮太郎】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10日、経済官僚出身の洪楠基(ホン・ナムギ)氏を経済副首相兼企画財政相に任命、即日就任した。洪氏は文政権が「所得主導の成長」と呼ぶ、所得を増やして景気を浮揚させる分配重視政策を継承する。一方で、急激な改革が景気を冷やさぬよう実行の速度調節も模索するとみられる。

文政権では大統領府と政府の経済政策の責任者の意見が、分配重視か成長重視かでことあるごとに対立している。文氏は11月、意見の対立する2人の更迭を決めた。空いたポストのうち大統領府で経済政策を担当する政策室長には社会首席秘書官を務めた金秀顕(キム・スヒョン)氏がすでに就任しており、洪氏の就任で新体制が始動した。

洪氏は1986年に企画財政省の前身である経済企画院に入省。大統領府での勤務経験も豊富で、直近まで閣僚級の国務調整室長を務めた。
洪氏は12月4日に国会で開かれた人事聴聞会で「社会の二極化問題を解消しながら持続可能な成長を実現するには包容的な成長の道を行かざるをえない」と語り、保守派や経済界から批判が強い「分配重視の政策」を踏襲する考えを示した。
一方、文政権下で最低賃金が2年連続で2ケタの引き上げとなり、零細事業者の経営を直撃していることについては「補完措置をとる」と発言。「来年に最低賃金を決める際は、市場の受容性や支払い能力、経済への影響を総合的に考慮する」と語り、上昇ペースを緩める考えを示唆した。
韓国は自動車や造船など主力産業の国際競争力が低下している。洪氏は「未来車やフィンテック、スマート工場、バイオなどで新たな需要が創出されるようにする」と、新産業の育成にも意欲を示した。
洪氏は調整型リーダーのイメージが強く、「無味無臭」と評する韓国メディアもある。一方、大統領府で政策室長に就いた金氏は不動産問題の専門家で、文政権の分配政策を設計した実力者だ。このことから政財界では「経済政策は今後、大統領府が主導する」との見方も根強い。
金氏もこんな見方を意識してか「経済政策の司令塔は経済副首相。私はサポート役」と、一歩引いた姿勢を強調する。洪氏が今後、果敢な規制緩和などを打ち出すなどで名実ともに「司令塔」になるか市場は注目している。
10日付で経済副首相を退任した金東兗(キム・ドンヨン)氏は同日の記者会見で「最後まで最善を尽くした」と総括。悔いはないと強調した。