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旭化成名誉フェロー吉野氏「歴史たどり近未来を予測」

若者と考える未来 大志をつなぐ

今回のテーマ「自分で仮説を立ててみよう」

日本経済新聞社は11月5日、東京学芸大学付属高等学校(東京・世田谷)で「自分で仮説を立ててみよう」をテーマに特別授業を開催しました。リチウムイオン電池を発明した吉野彰・旭化成名誉フェローが研究課題の克服への苦闘を語ったほか、イノベーションを起こす発想法なども示してくれました。聞き手役を木村恭子編集委員が務めました。学生からは活発に手が挙がり、質疑も盛り上がりました。

特別授業をする旭化成の吉野彰名誉フェロー(東京都世田谷区の東京学芸大付属高校)

◇  ◇  ◇

聞き手(木村恭子編集委員) 皆さんがお持ちのスマートフォン(スマホ)の中にリチウムイオン電池が入っているのはご存じですか。今日はこの電池を発明した吉野彰先生とお話を一緒にさせていただきます。まずは先生、どんな学生でしたか。

吉野氏 小学生のとき、担任の先生にファラデーの『ロウソクの科学』という本を勧められました。自然現象をわかりやすく説明した名著で、理系を選んだ原点です。高校に入ってからも化学だけは負けないぞ、という気持ちはありました。

遺跡発掘は化学に通じる

聞き手 京大工学部に進まれて、遺跡の発掘もなさっていたとか。

吉野氏 当時、工学部で最先端の石油化学教室に入ったものですから、逆に一番古いところに入るのがおもしろいかなと。それで考古学サークルを選びました。

聞き手 とんがってますね(笑)。ご自分の人生の中では大学時代はどんな時期だったのでしょうか。

京大では考古学サークルに所属し、遺跡発掘に携わった。(1966年、前列左から3人目が吉野氏)

吉野氏 振り返ると、2つの意味で役立ったと思います。1つは考古学とは歴史ですよね。10年後を予測しなさいと言われて、現在から見ようとします。それだと、混乱するだけで全く見えてきません。しかし、20年、30年前の歴史を自分でもう一回、たどってみる。そうすると、なぜ今、こんな状況になっているのかがわかりますよね。その延長線上で何か未来が見えてくるはずです。

もう一つは「トレンチ」という発掘手法が化学に通じているのです。発掘ではむやみに掘ると、遺跡を壊してしまう。例えば、100メートル四方の遺跡があったとしたら、縦横4本ぐらい、幅1メートルほどの溝を試掘します。そうすると、何かにぶち当たるわけです。それをつないで全体像を理解した上で全面的に掘るのが、トレンチです。仮説を立てて、検証する研究開発そのものです。

モノをつくって、世に広めたい

聞き手 大学の研究室に残る選択肢もあったわけですが、なぜ旭化成に入られたのですか。

吉野氏 やはりモノをつくって、それを世の中に広めたいなというので、企業を選びました。

聞き手 1981年にリチウムイオン電池の発明につながる研究をされましたが、その前に幾つか失敗されたそうですが。

吉野氏 イノベーションを起こすには、研究開発で何か新しいものを見いださないといけないですよね。普通、研究テーマを決めて2年ほど探索して、見込みがあれば、もう2年続けましょうと。ダメなら別のテーマを探すことになります。

聞き手 2年間で見通しをつけることが必要なんですね。

吉野氏 そうです。結果としてリチウムイオン電池の開発につながったのが、4番目の研究テーマでした。1~3番目は失敗しました(笑)。

聞き手 リチウムイオン電池開発の経緯を簡単に教えてください。

吉野氏 皆さんが使うパソコンの中に丸い電池がありますね。これが4本、6本セットで入っています。筒状の内部には薄い正極と負極の間にセパレータがあって、それらをぐるっと巻いたものが入っています。正極が金属酸化物で、負極がカーボン材。負極にカーボンを使うというのが安全性を高めるためのポイントになりました。

聞き手 そこに気づかれたというのが、発明のポイントだったのですか。

吉野氏 そうです。実は2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生が発見されたポリアセチレンという、電気が流れるプラスチックに関心を持ったのがきっかけでした。当時、2次電池の商品化に失敗していて、負極に問題点があることがわかっていました。ポリアセチレンを応用したらおもしろそうだなと。

聞き手 なるほど。

吉野氏 その後、ポリアセチレンの評価を進めたときにもっとコストが安い、カーボン材料でも十分役割を果たすことがわかり、現在のリチウムイオン電池の開発につながりました。

特別授業をする旭化成の吉野彰名誉フェロー(東京都世田谷区の東京学芸大付属高校)
 よしの・あきら 1972年京大院修了、旭化成入社。85年、リチウムイオン電池の基本概念を発明・確立。2004年紫綬褒章を受章。18年、公益財団法人、国際科学技術財団からジャパンプライズ(日本国際賞)を受賞。

聞き手 製品化までのべ15年の月日を費やされましたね。

吉野氏 皆さん、(研究者としての)勝負は36.8歳ですよ。歴代のノーベル化学賞を受賞された人が「あなたはこの受賞の研究を何歳から始めましたか」という質問を必ず受けます。平均が36.8歳なんですよね。少々リスクを負ってでも、俺はどうしてもこれをやるんだという年齢なのだと思います。そのときに備えて勉強していけば、イノベーターとして世界で認めてもらえるのではないかなと思います。

バズワードを調べてみる

吉野氏 これも覚えておいてほしいのですが、さきほど未来を読むのに過去の歴史からさかのぼって未来を予測してみようと言いました。もう一つは、buzzword(バズワード)という言葉をぜひ、調べてみてください。

聞き手 学生のみなさんは、バズるとか、そういう言葉を使わないかしら?

吉野氏 世の中が変わる10年ぐらい前に、まず言葉が先に生まれます。これがバズワードです。1995年にIT(情報技術)革命が起きる10年前、85年に"インターネット"というバズワードが世界にあふれました。もう一つの言葉が"マルチメディア"。1つのメディアで世界中の人と情報を共有できますよと。今になって「何だ、スマホのことか」と。必ず実現するのです。今まで聞いたことがない単語に出合ったら、必ず調べてください。それがバズワードの可能性があります。

《質疑応答》

技術革新にどう向き合う?

学生 実験で予想外の結果がでた場合、自分の予想が間違っていたと疑うべきか、実験の方法が間違っていたと考えるべきですか。

吉野氏 実験の検証は大事ですが、予想に反する結果が出たときは、ひょっとしたらとんでもない何か新しいものがそこに潜んでいる可能性を考えてみましょう。

旭化成の吉野彰名誉フェローに質問する生徒(東京都世田谷区の東京学芸大付属高校)

学生 企業に入った場合、研究の自由度はどのくらいありますか?

吉野氏 技術者の主な配属先は製造現場、顧客に自社の技術を説明する「技術営業」と呼ばれる営業職、それから研究所の3つです。自由度が高いのは研究所で、探索研究や基礎研究を手掛けます。ただし、1人で孤独な作業です。

研究者1人当たりの年間予算は約3000万円と想定されています。そこまでは割と自由に使うことが許されます。1億円を超えてくると、「成果はどうだ」とか言われるようになっちゃう(笑)。

学生 イノベーションと今後、どう向き合えばいいのでしょうか?

吉野氏 非常に重要な質問ですね。科学の進歩は人類を幸せにするのか、という問いですね。ルネサンス以前は宗教の力が強大で、科学や芸術がそれに奉仕する格好でした。ルネサンス以降は科学の発達が目覚ましく、産業革命が起きて人間が環境破壊を引き起こしたわけです。環境問題を解決することはあなたの問いへの1つの答えになるでしょう。また、これからの製品、技術には芸術的センスが求められるようになると思いますよ。人の心をくすぐる、まさに芸術の役割ではないですか。

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木村 恭子

カバージャンル

  • 国内外の政治経済
  • 教育(英語学習、エドテック等)
  • 女性キャリア

経歴

大学卒業後、読売新聞社や米ブルームバーグニュースなどで記者をしていた経験を生かし、政治や経済といったジャンルや、日本やアジア、欧米などのエリアを問わず、ニュースの「問題の本質」を深掘りすることをモットーとしています。発信にあたっても、新聞や電子版からテレビ、ラジオ、講演会などメディアや場を問いません。記者として知り得た情報をもとに、ニュースと読者の皆さんとの懸け橋になるような存在であり続けたいです。現職は編集委員。東海大学政治経済学部経済学科教授(2019年3月〜20年3月)。上智大学非常勤講師(2020年9月~21年3月)。早稲田大学大学院非常勤講師(2021年4月~)、同志社大学非常勤講師(2021年4月~)

活動実績

  
2021年9月27日 NIKKEI LIVE「勝つのはだれだ? プロが語る自民党総裁選、衆院選とその後」でMCを担当
2021年9月27日 早稲田大学と日経の連携講座「メディア産業論」でガイダンスを担当
2021年8月3日 日経CNBC「未来会議プロジェクト 本当に大切なことは何か。」出演
2021年4月28日 同志社大学と日経の連携科目「SDGsで考える社会課題とキャリア形成」で「社会課題に気づき解決するためのメディアリテラシー」をテーマに講義
2021年3月29日~ BSテレ東「日経ニュース プラス9」で毎週月曜コーナー「FTで知る世界の核心」担当
2021年3月22日 日経ウーマノミクス・プロジェクト「未来を拓くグローバルリーダーのコミュニケーション術」でナビゲーターを担当
2021年1月20日 上智大学と日経の連携科目「グローバル・リスク論」で「リーダーのリスクコミュニケーション」講義
2020年12月15日~ 日経電子版ニュースをひとこと解説する「日経Think!」のエキスパート(投稿者)を担当
2020年12月5日 日経主催オンラインイベント「大学の約束2020オンラインカンファレンス」登壇
2020年10月30日 日経ウーマノミクス・プロジェクト「自分に最適な英会話力アップの方法を知ろう!」モデレーター
2020年9月29日 早稲田大学連携講座「メディア産業論」でガイダンスを担当
2020年7月16日 立教大学と日経のコラボ科目「現代社会の課題とその関わり方入門」の最終回「授業のまとめと総括ディスカッションSDGs × AIの時代を考える」講義
2020年4月30日 立教大学と日経のコラボ科目「現代社会の課題とその関わり方入門」で「なぜニュースは大切なのか」をテーマに講義
2019年9月22日 日経Wアカデミー「デジタル時代の情報収集力アップ講座」登壇
2019年2月20日 日経共催“dodaキャリアセミナー”で講演「本音を引き出す会話術」
2019年1月28日 日経ウーマノミクス・プロジェクトのパネルディスカッションで司会
2018年4月~2021年3月 BSテレ東「日経プラス10」毎週月曜レギュラーコメンテーター

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