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身長は問題じゃない 躍動するメジャーリーガー

スポーツライター 丹羽政善

ある試合前の練習後、ホセ・アルトゥーベ(アストロズ)がダッグアウトの横で地元の子供たちと写真を撮っていた。ただ、その中には身長がアルトゥーベと変わらない子もいて、屈強な大リーガーを囲んで、という普段見かける光景とはだいぶ異なった。

公称では身長168センチ、体重75キロ。しかし実際には165センチあるかどうか。それでも2014年には225安打を放ち、ヒットメーカーとして一定の評価を得るようになった。スピードもあり、右打者とはいえ、転がせば内野安打を足で稼げる。

15年から2シーズン、アストロズの打撃コーチ補佐を務めたアロンゾ・パウエル氏(現ジャイアンツ打撃コーチ)は「彼にはヒットを打つことに関して、多くのオプションがある」と話し、続けた。

「けががなければ、いつでも年間200安打を打てるのではないか」

「フライボール革命」の一翼

ただそのころ、チームはフライボール――極端にいえば、本塁打を狙う野球にかじを切っていた。過去のデータからフライを打った方が打率のみならず、長打率も上がることがわかり、理想的な打球角度、打球の初速を選手らに徹底させていたのだ。その流れの中で、小兵のアルトゥーベでさえ打撃スタイルを変えると、16年と17年には24本塁打を放ち、「フライボール革命」の一翼を担うようになった。

遠くへ飛ばすには、ある程度の打球速度が必要。そのためにはそれなりの体重も必要。が、アルトゥーベのようなサイズでも必要最低限の体重があり、あとは打球に角度をつける技術があれば本塁打が打てることを証明した。フライボールの効果は限られた選手だけのものではない、ということもまた定着した。

さてその後、フライボールに対する対策まで浸透し始めた大リーグだが、対照的に日本ではまだ、柳田悠岐(ソフトバンク)ら一部の選手が実践しているにすぎない。指導者の中には体の小さな日本人の体形には向かない、という意見もあるよう。アルトゥーベらは例外だと。確かに、メジャーでもその点に関しては決してサンプルが多いわけではない。

大リーグの歴史や記録を主に扱う「ベースボール・アルマナック」が1876年から2012年までの全大リーガー(1万5078人)の身長を12年に調査。それをもとに計算すると、アルトゥーベほどの身長の選手はこれまで0.08%しかいなかった。5フィート9インチ(約175センチ)以下の選手は、全体のわずか11.6%だった。

小柄な選手がフライボール革命の流れに適応できたかどうかという以前に、ドラフトの時点でふるいにかけられてきた現実がある。

スポーツ専門局ESPN(18年9月21日付)の調べでも、長年16チームだった大リーグで球団の拡張が始まった1961年以降、5フィート9インチ以下の野手で、OPS+(出塁率と長打率から弾き出すOPSに球場の条件などを加味して補正した数値。得点にどれだけ貢献したのか、平均値からの突出した度合いなどがわかる。時代やリーグの違う選手との比較も可能)が155を超えたのは8回だけだったという。この数値の平均値は100で、150以上で優秀とされている。

ただ、その8回を誰が記録したのか。

実はアルトゥーベが2回マークし、ともに身長が5.9フィートのムーキー・ベッツ(レッドソックス)とホセ・ラミレス(インディアンス)もそれぞれ2回ずつマークしている。いずれも最近の話である。

大リーグのデータ分析に定評がある「ファングラフス」によると、選手としての総合評価を示すWAR(代替選手に比べてどれだけチームの勝利の上積みに貢献したかを示す数値)でも、16年の野手ではベッツが2位で、アルトゥーベが6位。17年はアルトゥーベが2位、ラミレスが7位。18年はベッツが1位、ラミレスが3位だった。そして、17年はアルトゥーベが、18年は自己最多の32本塁打を打ったベッツがア・リーグの最優秀選手(MVP)をそれぞれ受賞している。

「ベッツらが視野広げてくれた」

これは偶然か、必然か。

たまたま同じ時代に、傑出した力を持つ小柄な選手が台頭しただけ――。昔の経験でしか野球を見られず、それだけが基準となっている人はそう考えるのかもしれないが、おそらく答えは後者だろう。

彼らはいずれも、ここ数年で打球に角度をつけられるようになった。

ア・リーグ優勝決定シリーズで、塁上で話をするベッツ(左)とアルトゥーベ=USA TODAY

大リーグには日本の野球界に負けず劣らず、保守的な面がある。

年齢に対する考えもその一つだが、結局、体の小さな選手は大成しない、ホームランも打てない――。そんな偏見は今もある。18年、1368人(9月19日現在)がメジャーに登録され、そのうち5.9フィート以下の選手は42人しかいなかった。わずか3%である。

しかし、42人のうち5人がワールドシリーズを制したレッドソックスの選手だ。いち早く、彼らはなにかを捨てた。

18年6月、ホワイトソックスが5フィート7インチ(約170センチ)の選手をドラフト1位(全体4位)で指名した。1巡目で指名された選手の中では、史上最も身長が低いそうだ。しかし、ホワイトソックスのスカウト、マイク・ギャンジ氏が前出のESPNの記事の中で、こうコメントしていた。

「ベッツやアルトゥーベの存在が、視野を広げてくれた」

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