2019年6月27日(木)

辺境の町を揺らす仮想通貨の「採掘者」(IN FOCUS)

IN FOCUS
2018/12/11 6:00
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渓谷の麓に並ぶ貨物コンテナから放たれる異音と熱風。内部では光を点滅させながら轟音(ごうおん)を立てるサーバー群が、膨大な演算を繰り返す。米ワシントン州中部のコロンビア川周辺で、ここ数年増えてきた仮想通貨の採掘(マイニング)施設だ。

荒涼とした大地に並ぶ仮想通貨のマイニング施設。ビットコインを24時間

荒涼とした大地に並ぶ仮想通貨のマイニング施設。ビットコインを24時間"採掘"し続け、冷却用ファンから出る熱風と騒音も止まることはない(米ワシントン州ダグラス郡)

■電力を求める「採掘者」たち

コロンビア川沿いに位置するダグラス郡とシェラン郡。リンゴ栽培で知られるがここ数年、データセンターや仮想通貨のマイニング施設が増えている(米ワシントン州)

コロンビア川沿いに位置するダグラス郡とシェラン郡。リンゴ栽培で知られるがここ数年、データセンターや仮想通貨のマイニング施設が増えている(米ワシントン州)

この地域に集まる理由は、冷涼な気候と川の豊かな水源で作られる安価な電力料金。1キロワット時あたりの住民向け価格は約3セントと全米平均の3分の1以下で、24時間稼働し続けるサーバーと冷却用ファンに大量の電力を使う事業者にとって、コストを抑える魅力になってきた。

人口約4万人のダグラス郡でマイニングに消費される電力は、今年38メガワット時と日本の一般家庭の1万世帯分以上にのぼる。来年も増量を見込んでいたが、11月のビットコイン相場の急落とともに暗い影が落ち始めた。大規模施設を建設中だった大手が経営破綻し、裁判所に連邦破産法11条の適用を申請。電力供給元の公共事業管轄区(PUD)や建設会社などへの負債は、数十億円にのぼる見込みという。

3万平方メートルの敷地に建設中だった大手Giga Watt社のマイニング施設。撮影した翌週に経営破綻した(米ワシントン州ダグラス郡)

3万平方メートルの敷地に建設中だった大手Giga Watt社のマイニング施設。撮影した翌週に経営破綻した(米ワシントン州ダグラス郡)

新規マイニング業者との電力供給契約を停止した、米ワシントン州シェラン郡の町

新規マイニング業者との電力供給契約を停止した、米ワシントン州シェラン郡の町

川対岸のシェラン郡では変電所に投資をしたが、電力料金を払わないまま突然消えた業者や、遠隔操作で稼働していたサーバーのオーバーヒートでぼや騒ぎも起きた。住民の出資で運営されるPUDは、無計画な過剰利用を問題視し、3月に新規事業者との契約を休止した。デニス・ボルツ理事は「身勝手で無責任な使い方をする業者の損害を我々が被るのはごめんだ」と話す。

5つの施設に1万8千台のマイニングサーバーを持つマラカイ・サルシド氏は、「地域が求めているのは長期的なビジョンを持った事業者。我々は年単位の話し合いで信頼を得て生き残っている」と語る。だが町の外からやってきては「いますぐよこせ」「もっとほしい」とデイトレーダーのように電力を要求するものも多く、自らも誤解の渦に巻き込まれたという。「そういう会社は消えていったけれど」(同氏)と生まれた町の激動を振り返る。

■ゴーストタウンに差す光

仮想通貨ブームの波に乗った"採掘者"が押しかけてきたのは、このエリアだけではない。中国、北欧、アイスランド――。世界中の安価な電力が供給される土地に最新鋭のサーバーを設置し、通貨取引を成立させる見返りに富を得てきた事業者には「エネルギーの無駄遣い」との批判もあがる。地域にもたらされる税収を歓迎する一方で、雇用を生まない謎のデータ産業を敵視したり、電力料金の値上がりを懸念したりする住民も少なくない。

閉鎖された製紙工場跡地で7月に操業を始めた「オーシャンフォールズ・ブロックチェーン」。かつて1200人の職人が汗を流していたという場所で、500台のサーバーがうなる(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

閉鎖された製紙工場跡地で7月に操業を始めた「オーシャンフォールズ・ブロックチェーン」。かつて1200人の職人が汗を流していたという場所で、500台のサーバーがうなる(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

1980年代に営業を休止したリゾートホテル跡地。一大産業だった製紙工場の撤退で住民も去り、町には廃虚が点在する(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

1980年代に営業を休止したリゾートホテル跡地。一大産業だった製紙工場の撤退で住民も去り、町には廃虚が点在する(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

町に存在する唯一の商店はバー。週3日、午後4時から7時までの営業で、店主は港湾管理者や郵便局員の職も兼務する(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

町に存在する唯一の商店はバー。週3日、午後4時から7時までの営業で、店主は港湾管理者や郵便局員の職も兼務する(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

約100年前に作られたという水力発電用のパイプ(左)。電力需要の増加を受け、隣では新たに2本の建設が進む(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

約100年前に作られたという水力発電用のパイプ(左)。電力需要の増加を受け、隣では新たに2本の建設が進む(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のオーシャンフォールズ)

そんな中、衰退した町に一筋の光を当てる事業者も現れた。基幹産業だった製紙工場が30年以上前に撤退し町が廃虚と化した、カナダ西部の海岸町オーシャンフォールズ。最盛期には3千人以上が暮らし夏のリゾート地としても栄えたが、工場閉鎖とともに住民も去っていった。いま冬の人口は30人にも満たない。

大都市バンクーバーの起業家、ケビン・デイ氏がこの地に目をつけたのは、海に囲まれ送電網で域外とつながっておらず、ダムが作る電力を持て余していた点だ。"ゴーストタウン"の異名も持つ地に住居を構え、工場跡地で7月からマイニング操業を始めた。

目指すのは「ブロックチェーンによる町の再生」。サーバーが発する熱を住居に供給する取り組みを始め、野菜の温室栽培や魚の養殖に応用することも描く。農家も食料品店もない土地で、住民からの期待も大きい。来年にはサーバーを倍増する計画で、電力会社も約100年前に建設された水力発電所の改修を進める。事業の拡大に向けた光ファイバーケーブル敷設工事も始まり、廃退した町はふたたび動き始めた。

2年以上の交渉を経て供給を始めた電力会社の地域責任者は「初めは聞き慣れないビジネスに首をかしげたが、会社や町にもたらす利益は大きいと判断した」と話す。だが、町の栄枯盛衰を見てきたからこそ、こうも続ける。「今後供給をどの程度増やしていくかは慎重に検討していく必要がある。急スピードで変化を続けているビジネスだからだ」

2017年12月に2万ドル台の最高値をつけた1ビットコインの価値は、1年で5分の1ほどになった。取引を支えるブロックチェーンのマイニング事業の採算性も不安視される中、彼らは自分たちの町の未来をどう変えていくのか――。懐疑と期待で住民の心は揺れている。

  (写真部 横沢太郎)

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