ライブ感の経済圏
(WAVE)マネーフォワード・瀧俊雄氏

2018/12/11 6:30
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英国の人気ロックグループ、クイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」の勢いがすごい。ボーカルのフレディ・マーキュリーが移民一家としての出自にコンプレックスを抱えながらスターダムにのし上がり、エイズへの感染と仲間の喪失を経て、自己を捉えなおす過程を描いている。なにより圧倒的なその「声」の強さ。そしてそのストーリーの強さに不思議と自分の生きざまを重ねることができる。だからこそ手放しで見に行った方がいいと思える、良い作品といえる。

マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長。野村証券で家計行動、年金制度などを研究。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て2012年マネーフォワードの設立に参画。

アカデミー賞に輝いた「ラ・ラ・ランド」を皮切りに、「グレイテスト・ショーマン」など、音楽を主軸とする映画はこの数年でかなり広範な人が行くようになった印象がある。

背景の一つには映画館が従来の話題を共有する場から、他の観客たちともその場限りのライブ感を共有する場所になりつつあることもあるのかもしれない。映画館の側でも声出しや拍手、発光する「サイリウム」の持ち込みにコスプレも可能な「応援上映」や「爆音上映」といった、その場限りの体験性を強化する工夫がいまやそこかしこの劇場で見られるようになった。

このようなライブ感を求める嗜好は、昨今のロボットが人間の仕事を奪う話の延長においても、最後まで残るタイプの仕事として位置付けられる。

サービスの提供者や集う人たちのセンスに基づく体験は再生産をするのが難しい。限られた人たちの間で展開される消費であるからこその高揚も存在する。

分かりやすい例が、グルメサイトの最上位に位置する飲食店だ。消費者はお店に入る前には想像ができないシェフ特有のサービスを受ける。席数が限られるために、下手をすれば次の予約は再来年。こういうお店を予約する権利には少なからぬ価値がある。

現在はそういった予約へのアクセスを事前に販売したり、グルメコミュニティーへの寄与度によってアクセスのしやすさを調整することが技術的に可能だ。特定の世界観に従って予約する権利をクラウドファンディングの形で販売することもできるし、飲食ではなくて電子的なサービスであれば利用するための権利をトークン(電子的な権利証)として売ることもできる。

サービスを提供する側も事前にどれくらいの売り上げがあるのかを見込むことができる。インターネットの本質でもあるマッチングが発揮されるタイプの状況ともいえる。

昨今は企業が独自でトークンをブロックチェーン(分散型台帳)の上に発行して資金を調達する「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」が政策的にも様々な批判がある。本質的には「トークンセールス」とも呼ばれる世界が広がる中で犯罪的な例を除外しながら、その付加価値に着目した検討も改めてなされるべきなのかもしれない。

ノスタルジーかもしれないが、このような限られた場所でのエンターテインメントへのアクセスは1990年代終わりごろの東京都渋谷区のミニシアターブームを彷彿(ほうふつ)とさせる。消費を通じて自身が何者であるかを形付けていくことは、現代社会の重要な側面であり、ライブ性を大事にすることは豊かで多様な文化や社会にもつながる。

[日経産業新聞 2018年12月6日付]

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