仏、燃料増税を6カ月延期 マクロン改革停滞も
【パリ=白石透冴】フランスのフィリップ首相は4日、2019年1月に予定していた燃料税の引き上げを6カ月延期すると発表した。仏全土で続く燃料増税に端を発した仏政権への抗議デモの沈静化を狙い初めて譲歩した。今回の譲歩で「小さな政府」をめざすマクロン大統領の改革が停滞する可能性も出てきた。4日予定されていたデモ代表団との面会も不調に終わり、週末に計画されているデモを止められるかは不透明だ。

燃料増税は19年1月1日の実施を予定していたが、6カ月間先送りする。フィリップ氏は4日のテレビ演説で「関係者との議論無しには増税しない。国民の怒りの声を聞かないわけにはいかない」と説明した。
フィリップ氏は19年1月に予定されていた電気とガスの値上げ、安全や環境保護を目的とした車検の基準強化も延期すると述べた。
マクロン政権は燃料増税は地球温暖化対策の一環だと訴えてきた。しかし、3日には各野党党首が首相府を訪れて政府の対応を批判した。デモの長期化で観光など経済への悪影響が懸念される中、譲歩を迫られた。
マクロン氏が自身の掲げてきた改革で大きな後退を余儀なくさせられるのは初めて。「小さな政府」をめざし、公務員削減など財政赤字を縮小する今後の改革の進捗にも影響を与える可能性がある。
ルメール経済・財務相は4日「予定通り財政赤字を削減していく」などと述べた。ロイター通信によると、仏政府筋の話として、燃料増税の6カ月の先送りは20億ユーロ(約2500億円)相当の負担が発生するが、政府支出削減で2019年度の政府予算で財政赤字を国内総生産(GDP)比2.8%に維持するとしている。
燃料増税延期でデモが収束するかは依然見通せない。フィリップ氏は4日、首相府で蛍光の黄色いベストを着て参加する運動「黄色いベスト」の代表団約10人と会う予定だった。だが参加予定者は次々に「公の場に行くことで、身の危険がある」などと主張して面会を拒否した。
面会が不調に終わったのは11月下旬に続き2回目だ。仏政府は対話でデモを落ちつかせる狙いだったが、あてが外れた。4日のフィリップ氏の発表に対しても早速「全く満足できない。なぜ増税は(中止ではなく)見送りなのか」などの反応がデモ参加者から出ている。
フランスで現在、ガソリンの小売価格は1リットル当たり約1.6ユーロ、軽油約1.5ユーロだ。足元では値下げする店舗があるものの、マクロン政権が始まった17年5月にはそれぞれ約1.4ユーロ、約1.2ユーロで、上昇している。
一方で値上げ幅の約3分の2は原油価格の高騰によるもので、残りは課税による。仏メディアによると、仏政府は18年1月にガソリン1リットル当たり0.038ユーロ、軽油で同0.076ユーロ増税した。19年1月にはさらにガソリンで同0.029ユーロ、軽油で同0.065ユーロの増税を予定していた。
現状では英国やドイツなどと比べて、目立って高いというわけではない。マクロン氏の構造改革には社会保障増税などが含まれており、暮らしが悪化したと感じる人たちが怒りを爆発させた。
実際SNS(交流サイト)を通じて広がった反政権運動だけに参加者個々の動機は燃料税引き上げにとどまらず、たばこ税、電気代への不満など幅広い。代表団だけをみても保険会社幹部、タクシー運転手など属性は様々で、労働組合のストなど従来型の運動と比べ意見集約が難しい。
「黄色いベスト」は8日にも次回のデモを実施する構えで、再度の被害が懸念される。3回の週末デモで仏全土で計4人が死亡しており、直近の1日のデモでは260人以上が重軽傷を負った。
パリのイダルゴ市長によると、1日のデモでは、器物が破壊されたことなどによる被害額は300万~400万ユーロ(約3億8千万~5億1千万円)に上った。
仏ラジオRTLの3日の報道によると、国民の72%はデモを支持しており、マクロン氏は追い込まれている。19年5月の欧州議会選を意識し、野党は一斉にチャンスとみてマクロン氏批判を強めている。極右国民連合(元国民戦線)のルペン党首と、急進左派「不服従のフランス」のメランション党首は議会の解散総選挙を求めている。
特に国民連合はマクロン氏率いる与党・共和国前進を支持率で上回る勢い。マクロン氏に対する悪いイメージを広げることで、選挙での躍進を狙う。共和国前進は国民議会(下院)で過半数を握っており、マクロン氏が総選挙などに応じる可能性は低い。