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ソニー、CVC設立2年半 革新事業狙う

ソニーがスタートアップに熱視線を注ぐ。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じ、約30社に出資している。日本、欧米、そしてイスラエル、業種も多岐にわたる。CVC立ち上げから約2年半、ようやく厚みもでてきた。これからソニー本体、スタートアップ群を巻き込み、斬新なビジネスモデルを生み出す考え。ソニー流でスタートアップ育成術を"再発明"する。

「どんなアルゴリズムになっているのか」「なぜこのセンサーを使っているのか」――。11月26日~28日、東京・港のソニー本社。ソニーが開いたグループ全体の技術交流会に、普段見慣れないメンバーがいた。ソニーのCVC、ソニーイノベーションファンド(SIF)が出資するスタートアップの幹部らだ。

出資先に集まってもらい、ビジネスや技術を紹介した。日本で初。6月にSIFとして第1弾だった米国での交流会で、投資先同士での協業が検討されるなど成果がみられた。スタートアップらしいスピード感だ。

今回は自動運転技術開発のティアフォー(名古屋市)やデータ分析の米ディファインドクラウド(ワシントン州)、ロボットシステム開発のラピュタロボティクス(東京・中央)など12社が参加した。ソニーのエンジニアも混じって議論を交わした。

「品質面や研究開発(R&D)の知見、ソニー損保などグループの存在も魅力がある」。自動車関連のデバイスやデータ解析を手がけるスマートドライブ(東京・港)の北川烈社長は説明する。運転の癖などから事故リスクを推定するシステムなどを手がけ、ハード面から市場導入までソニーに対する期待は大きい。

CVCは、一般的なベンチャーキャピタル(VC)とは一線を画す。新規株式公開(IPO)、売却といった「エグジット(資金回収)」だけに振り回されない。長期的なビジネスにつながること重視する。資産運用を自動指南する「ロボットアドバイザー」を手がけるウェルスナビ(東京・渋谷)はソニー銀行と組み事業化に走り出した。

「SONY」ブランドも輝き

「SONY」ブランドも輝きを失っていない。ディファインドクラウド幹部のアヤ・ズーク氏は「日本市場でリーチできる可能性を広げてくれる」と意欲をみせる。スタートアップにとって、ソニーのお墨付きはマーケティング・営業力を考えれば武器になる。

SIFは人工知能(AI)やロボティクス、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」といった分野の事業開発を加速するため、2016年7月に立ち上げた。グローバルに有望スタートアップを地道に訪ねて、出資・協業を働きかけた。

スタートアップ投資は今、過熱する。米シリコンバレーをはじめ海外の新興企業の集積地だけでなく、日本にもその波は来ている。大企業がCVCを次々と設けて、ビジネスの原石に資金を投じている。10兆円ファンドの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」はその最たる存在だ。

そういう意味でもSIFがうまく成功を手中にして、ソニーらしさに存在感を出すのはこれからだ。投資先の技術力、グループをあげてのバックアップを踏まえれば、"大化け"する希望は十分にある。

米アップルのスティーブ・ジョブス氏は初代iPhoneを「電話を再発明する」と世に送り出した。音楽プレーヤーを再発明し、「ウォークマン」をヒットさせたのがジョブス氏があこがれたソニーだった。前身の東京通信工業も熱量にあふれた立派なスタートアップだった。折しも最高益のソニーが、野心的な起業家らと何を産み出すのか。妙手に注目したい。


2%の狭き門


 ソニーCVC、SIFが2年半で投資してきたのは約30社。「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」と比べてしまうと、派手さがないものの、狭き門をかいくぐった有望スタートアップ。SIFのメンバーが検討したのは世界中の1500社、目にかなった2%ということになる。
 SIFも少数精鋭の人員構成だ。ソニーで長く知的財産のチームを率いた御供俊元執行役員が統括する。実動部隊はたった4人。各エリアに張り付きスタートアップの情報を集めるサポート社員に加えて、各事業のエンジニアらも技術のポテンシャルを見極める。
 「事業部の目利き力を信頼している」。SIFで欧米の海外スタートアップを担当する鈴木良太氏は説明する。月に1~2回の海外出張を繰り返し、有力スタートアップを発掘する。最先端技術のメカニズムに踏み込んで理解するには難しさがある。社内で専門とするエンジニアに相談する。
 もちろん出資後のサポートにもつながる。「技術力を面白いと思うエンジニアがいれば、その後の展開もスムーズになる」(鈴木氏)。
 出資するかどうか。鈴木氏はある判断材料を大事にする。その表情。技術を説明しながら、にやける経営者がいるという。ふざけていると思うどころか、技術に心酔していると胸を躍らせる。「これで社会を解決するという意識が高いスタートアップを探す」(鈴木氏)。それが今の約30社。次のソニー予備軍でもある。とはいえ、「まだ入り口にすぎない」ことも承知している。
(岩戸寿)

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