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現実主義で冷戦終結を導く ブッシュ(父)元大統領
日本には厳しく

2018/12/1 15:21
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1989~93年に第41代の米大統領を務めたジョージ・H・W・ブッシュ氏が94年の生涯を静かに全うした。89年のベルリンの壁崩壊で東西冷戦を終結に導いた立役者の一人として、父子で米国の頂点を極めた政治家一族の家長として。戦後世界の変転と運命を共にした指導者だった。

長男のジョージ・W・ブッシュ氏(左)とともに、父子で米国の頂点を極めた=ロイター

長男のジョージ・W・ブッシュ氏(左)とともに、父子で米国の頂点を極めた=ロイター

18歳で米海軍に志願、最年少のパイロットとして第2次世界大戦に出征した。恋人だったバーバラさんの名を記した爆撃機が日本軍に撃墜され、米潜水艦に救助されて九死に一生を得た。

45年にバーバラさんと結婚。エール大ではバスケットボール部の主将を務めるかたわら成績優秀者に選ばれた。テキサス州で石油ビジネスに携わり、40歳で億万長者に。ここから政治への挑戦が始まった。66年に下院議員に当選したが、父の務めた上院議員への挑戦は2度失敗した。ここで築いた経験と人脈が結果的に財産になった。

米中の国交回復前に初代の連絡事務所長(後の大使)として北京に駐在し、のちに中国の最高実力者として君臨する鄧小平氏と個人的な関係を築いたといわれる。国連大使や米中央情報局(CIA)長官となり、国際的な視野も広げた。

レーガン政権の副大統領を2期8年務め、89年1月に米大統領に就任。仕事始めの日にゴルバチョフ元ソ連共産党書記長と電話会談し、米ソ関係の強化で意気投合した。旧西ドイツのコール首相とも1年で十数回の協議を重ねた。

イデオロギーにとらわれない現実主義者。そんなブッシュ氏の特質は時代の潮流にぴたりと合った。米外交政策の基軸だったソ連の封じ込め戦略を「対話」に変えたことが約40年の冷戦を平和裏に終わらせる原動力になった。89年11月のベルリンの壁崩壊を見届け、翌12月にゴルバチョフ氏と地中海のマルタで会談。冷戦後の世界秩序づくりに尽力した。

「ドイツが東西統一に伴う困難に立ち向かい、地域と世界で指導的、建設的な役割を果たしているのを見るのは本当に素晴らしい」。壁の崩壊から四半世紀を刻んだ14年、ブッシュ氏は独メディアに感慨深く語った。

1991年、ソ連のゴルバチョフ大統領(右)と記者会見に応じるブッシュ氏=AP

1991年、ソ連のゴルバチョフ大統領(右)と記者会見に応じるブッシュ氏=AP

地に足の着いた穏健な外交が持ち味だった。「私自身は強い意見を持っている。だが、いつもそれに同意しているわけではない」。指折りの政策通でありながら、ベーカー国務長官やスコウクロフト大統領補佐官(国家安全保障担当)らの意見を真摯に聞いた。

冷戦終結で米国は唯一の超大国となった。90年8月のイラクによるクウェート侵攻を受け、91年に入り西欧諸国などと連合する多国籍軍で湾岸戦争を開始。集中的な空爆でイラクの防空施設などを破壊する「砂漠の嵐作戦」を展開し、短期間で停戦を達成したブッシュ氏の支持率も急上昇する。しかしイラクに侵攻せずフセイン政権を延命させたとの批判は残った。

92年に東京で開いた晩さん会で倒れ、宮沢喜一首相に抱きかかえられたシーンが多くの日本人の記憶に残る。

だが機密解除となったホワイトハウスの文書には、ブッシュ氏が日本に対して再三、厳しい態度をとった記録が数多く刻まれている。

90年9月の海部俊樹首相との会談でブッシュ氏は湾岸諸国への自衛隊支援の遅れに「国会の問題があろうが、決定を越年させないよう念押しする」といら立ちを示した。90年の日米構造協議など一連の貿易摩擦では「動かない日本」に警鐘を鳴らし続けた。

一方、在任中の経済運営は失敗に終わったといえる。大型減税を柱とするレーガノミクスを「おまじないの経済学」と批判したブッシュ氏。だが、財政収支改善を重視する民主党との妥協で公約に反する増税を余儀なくされ「うそつき」と非難された。

不況脱出に手間取り、92年の大統領選で民主党のクリントン氏に再選を阻まれた。利下げに動かなかったグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長の続投に「私は議長を再指名したが、議長は私を失望させた」と悔やんだ。

米政治の名家を築いたが、次世代は苦労している。長男のジョージ・W・ブッシュ元大統領はイラク戦争やリーマン・ショックで火だるまとなり、三男のジェブ・ブッシュ氏は16年の共和党大統領候補争いでトランプ現大統領に敗れ去った。

14年、90歳の誕生日を機にパラシュート降下に挑むなど若々しさを印象づけた。18年4月、73年連れ添った最愛の妻バーバラさんが死去。直後に夫のブッシュ氏も一時容体が悪化したが、回復を果たした。バーバラさんの葬儀後、ひとり欠席したトランプ氏を除く歴代の大統領やファーストレディーとにこやかに写真に納まった。

トランプ氏の露骨な「米国第一」の行動を、ブッシュ家のような共和党の主流派は内心苦々しく見ているだろう。世界を率いる自覚を失いつつある米国に、ふたたび真の指導者は現れるのか。ブッシュ氏はそう嘆いているのではないか。

(ワシントン支局長 菅野幹雄)

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