2018年12月16日(日)

クリード、アジアの再起「ベトナムで1番になる」

住建・不動産
東南アジア
2018/12/2 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

ある平日の午後。職場のドアを開けるとほんのりとアルコールの臭いがした。「何だろう……」。ふと見ると男たちの顔が、かすかに赤い。机の上にはベトナムの代表的なもち米焼酎「ネプモイ」の瓶。クリード社長、宗吉敏彦が顔をのぞかせると親日国らしい人なつっこい笑顔で「やあムネヨシさん。コンニチワ。元気デスカ」――。宗吉も思わず笑顔で「やあ、コンニチワ」。

クリードがホーチミン市内で現地のデベロッパー、アンギアと共同で建設をすすめる高層マンションの現場。高層マンション群が立ち上がる。

クリードがホーチミン市内で現地のデベロッパー、アンギアと共同で建設をすすめる高層マンションの現場。高層マンション群が立ち上がる。

2011年5月、宗吉はシンガポールに居を移した。そして最初に攻略すべき国の1つとしてあげたのがベトナムだった。

ベトナムは国土を南北に分断し戦ったベトナム戦争の後、カンボジア、中国とも戦い、1980年代後半まで国が紛争を抱える状態が続いた。国民の平均年齢は30.5歳。47.3歳の日本に比べると極めて若い。

国が若い分、経済の成長力もすさまじい。都市部の良いところなら土地の値段は2年で2倍になった。「ベトナムはチャンスだ」。目を付けた宗吉は14年、同国最大の都市ホーチミンにクリードの拠点を設立し住宅開発事業に乗り出した。

ベトナムで不動産プロジェクトを進めていくうえでまず必要なのは地元のパートナー。現地企業と組まなければ日本企業だけでは一歩も進めない。土地情報は決して回ってこないし土地の(使用権)の取得やマンション建設の許認可の取得も難しい。

クリードもその慣習に従った。地元の老舗の不動産会社を見つけ出し、ガッチリ手を組み仕事に乗り出したはいいが、どうも勘が狂う。「俺は1日ごとに1000万円の利益を生むことを自分に課している」という宗吉には理解しにくい面も多かった。

ただ、もちろん宗吉も分かってはいた。例えばベトナムでは重要な商談の場合など昼間から焼酎を飲むのは珍しくない。人とのコミュニケーションを円滑にするには酒は欠かせない。

そもそもベトナムで不動産業を営むなら「人脈こそすべて」。大きな土地を売りたがっている人の話も、手抜きをしないゼネコンがどこかといった情報も人脈を伝って入ってくる。職場にコミュニケーションに不可欠な酒があるのはごく自然なことだった。

だから宗吉も何も言わなかった。仕事をやってくれればそれでいい。人様の国の文化に文句を言うつもりはなかった。ただ、もう少し若い現地の新興企業とも仕事をしてみたかった。「俺が欲しいのはスピード。うかうかしていたらこの国の成長の果実を取りこぼしてしまう。老舗企業とは別に、もう一つ若い会社を探すんだ」

宗吉の命を受けベトナムの駐在員事務所長の山口真一がホーチミン中の不動産会社をかけずり回った。全部で三十数軒、モデルルームを1つずつ。夕方のスコールの時はホーチミンの中心地であっても道路が水没、長身の山口でも膝まで泥水につかった。その泥水の中を山口は進んだ。

「どれも『こんなモデルルームをつくる会社からマンションを買うのはちょっとどうかな』とちゅうちょしたくなるものが多かった」

しかし、1つだけ違った。ベッドには高級なクッションが置かれ、本棚の脇にはベトナムではまずお目にかかれない、しゃれた地球儀。聞くと、この会社の社長夫人のホー・ティ・グエン・アンがわざわざタイにまで出かけて買ってきたものだという。以前は不動産サービス大手のCBREで働いた経験がありビジネスの勘所もいい。「いいじゃないか」。15年のことだった。

この会社こそ現在、クリードがベトナムのプロジェクトで二人三脚を組むアンギア。当時、社員数100人そこそこの街のちょっとした不動産屋だったが、社長のグエン・バ・サンに山口が会うと「僕らは最高の仕事をする。ホーチミンで一番、そして10年後にはベトナムで一番のデベロッパーになる」。きっぱり言い切った。

身長160センチ、30歳を少し過ぎた若い社長、サンは全身にエネルギーがたぎっていた。山口は一目で気に入った。山口から報告を受けた宗吉はアンギアと組むことを決めた。15年以降、アンギアとクリードが現在までに取り組んだプロジェクトは全部で6つ。業績も急回復、クリードと組む前の14年、3千万円の赤字だった最終損益は18年には14億4千万円の黒字に転換する見通し。1~3年先の上場を目指すという。

=敬称略

(企業報道部 前野雅弥)

[日経産業新聞 2018年11月20日付]

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