2019年6月25日(火)

FRB、利上げ停止前倒し視野 景気と物価を両にらみ

2018/11/29 17:30 (2018/11/29 22:58更新)
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【ワシントン=河浪武史】米利上げ路線を巡り、米連邦準備理事会(FRB)高官が早期打ち止めを示唆する発言を繰り出している。パウエル議長は28日の講演で、12月の利上げを示唆しつつ「金利は中立水準をわずかに下回る」と述べ、利上げの停止が近いとほのめかした。米経済は株安や貿易戦争などのリスクが増しており、2019年に利上げをいったん打ち切る可能性が出てきた。

「金利は経済に中立的とされる水準をわずかに下回っている」。パウエル議長が28日の講演でそう言及すると、米株式相場は上昇した。パウエル氏は10月時点で「(中立水準には)まだ距離がある」と主張していたが、表現を転換したことで市場は利上げの打ち止めが近いと判断。ダウ工業株30種平均の終値は前日比600ドル超上げた。

パウエル氏が言及した「中立水準」とは、景気を過熱もさせず冷やしもしない金利水準を指す。FRBの米連邦公開市場委員会(FOMC)は同水準を3.0%(メンバーの中央値)と分析。政策金利は2.00~2.25%まで高まっており、あと3~4回の利上げで中立水準に到達する。

ただ、FRBは3.0%で利上げを停止するとは断言してこなかった。「物価の過熱を予防するために、金利は中立水準をやや上回る程度に引き上げるべきだ」(シカゴ連銀のエバンズ総裁)との意見が多く、FOMCの中心シナリオは「20年まで利上げを継続し、政策金利を3.5%まで引き上げる」だった。

10月からの2カ月弱で何が変わったのか。一つは株安だ。「低金利・低物価」という適温相場がFRBの利上げで一変。足元では17年末の水準を下回ることが多くなってきた。パウエル議長は14日の討論会で「米経済は非常にいい状態だが、世界経済には減速の兆しがある」と実体景気にも慎重な見方をにじませた。

トランプ大統領の圧力が効いているとの指摘もある。同氏は「中国よりもFRBが問題だ」と利上げ反対論を一段と強めている。ホワイトハウスは「減税による生産性の向上で、供給不足による物価上昇は起きない」(国家経済会議のクドロー委員長)との立場だ。利上げが進むと政府の利払い負担が増え、大型減税などによる財政悪化にも拍車がかかる。

トランプ氏が指名して9月に就任したクラリダ副議長の影響も大きい。同氏は「インフレなき成長論」に理解を示し、10月の最初の講演では「19年に入って物価が安定したままなら、想定以上の利上げには反対する」と言い切った。金融政策を専門とする経済学者で、法律家のパウエル氏を補佐する役割を担う。ダラス連銀のカプラン総裁ら、地区連銀トップにも19年の利上げ停止論が広がっている。

パウエル議長は28日の講演で「段階的な利上げ」が当面は適切との考えも示し、12月18~19日に開く次回FOMCで、追加利上げに踏み切る考えをにじませている。先物市場も83%の確率で12月の利上げを織り込んでおり、ひとまず政策金利を中立水準に一段と近づけることになりそうだ。

同氏はさらに「FOMCは最善の予測を提示しているが、決められた政策経路はない」と述べ、先行きは「今後は極めて注意深く経済データをみていく」とも付言した。

パウエル氏は単純な利上げ停止論に傾いているわけではない。米経済は失業率が48年ぶりの水準まで下がり、物価過熱への警戒感は残っている。一方で米景気は減税効果が薄れる19年後半以降、減速が懸念される。さらに貿易戦争次第では、物価が上昇して景気が停滞する「スタグフレーション」のリスクすらある。

米経済の先行きはかつてないほど変数が増している。パウエル氏が目指すのは、これまでの四半期ごとの機械的な利上げ路線はいったん打ち切り、インフレが強まれば再び政策金利を引き上げる実務ベースの政策運営への転換だ。

経済データに応じた柔軟な金融政策は、実務家であるパウエル氏らしい発想ともいえる。ただ、物価が上昇すれば利上げ加速観測が浮かび、指標が下を向けば利上げ停止観測が強まって、かえって相場の乱高下を招きかねない。28日は株高で好感したが、FRBも投資家も、経済指標一つで一喜一憂する慌ただしさを覚悟する必要がある。

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